Mors Principium Est/The Unborn  (ASIN:B00092QUR6)

1stの出来が良かった、と聞いていたが結局未聴で、個人的には相対するのは初めてとなるフィンランドメロディックデスメタルバンド、2枚目。これぞメロデス、と言わんばかりに先行バンドの長所を貪欲に取り入れたストロングスタイルで、オリジナリティには少々欠けるものの全ての要素が満遍なく高レベル。なおかつ、追随者特有のスケールの小ささも感じさせない、と言う後発のバンドとして相当の出来映え。
本作を聴いた誰もがそう感じる事だと思うが、#1「Pure」の強烈なリフに続いて現れるゴシック風の女性ヴォーカルには思い切り意表を突かれた。程なく切り込んでくるメインヴォーカルの咆哮との対比は効果抜群で、掴みのインパクトが非常に大きい。ヴォーカルの声質がやや低めである上に唸りを吐き出す獣性剥き出しの迫力あるスタイルである事、それからリズムギターのざくざくとした無遠慮な刻みが思い切り音像の前面に出て来るようなミックスになっている事、更に全体としてかなり荒削りな(クリアでない、と言う事だが欠点になっているとは思わない)音作りになっている事で、非常にブルータルで格好良い仕上がりになっている。リズム隊も、ミドルテンポになった時の粘りや無慈悲さはそこまでではないながらも土砂崩れを起こしたかのように迫り来る速いビートの攻撃力はかなりのもので、とにかく全体として音楽性自体は既存のものでありながらも小ぢんまりとまとまらない殺傷力の高さ、それからツインギターによるダークな哀愁やべったりとした残虐性に満ちたメロディの良さがガッチリと高次元で噛み合っている。キーボードによるやや近未来的な(場面によっては、少しシンフォニックな)味付けもかなり良い感じで、ところどころに差し込まれるSEや打ち込みの音も効果的。ベタだが非常にセンスが良いので、バンドサウンドとヴォーカルに醒めた冷たさや音の広がりを与えるのは上手く行っていると思う。
曲の出来は全体的に良い。まずリフがどの曲も印象的で、そしてリフをしっかり活かしつつ楽曲を緻密に組み上げる事にも成功している。キーボードの飛び道具的な使い方も良くハマっているし、ツインギターが超高速でハモりながら奏でる泣きのソロがあちこちに配されていて、これがものすごく格好良いのも大きなウリ。曲を構築する能力の高さと攻撃性や暴力性、それに叙情性とのバランスがとても取れていて、結果として模倣や追随などとは言わせないだけの説得力がしっかりと備わっているのが何とも好印象。アルバム本編を10曲45分と手頃なサイズにまとめ、#5「Spirit Conception」とラストの#10「The Glass Womb」がインスト、と言うのも全体を一つの流れとして捉えやすいようになっていて良い。と言うか、ゴツゴツとしたブルータリティを削り過ぎず生々しくし過ぎずに聴きやすくキャッチーなものに仕上げて提示出来ている時点でこのアルバムは優れている、と感じた次第。
リズムギターの音が少し大き過ぎてギターソロやヴォーカルの音を押し潰してしまっているように感じられるのが残念。特にソロの音が音像のかなり奥の方に引っ込んでしまっているのでどうも聴いていてもどかしいと思わされることも多いが、それ以外はある意味メロディックデスメタルの一つの完成形と言えそうな、実に格好良いヴィメタルアルバム。聴き込み甲斐もかなりあって、しっかりハマれる一枚。