System of a Down/Mezmerize  (ASIN:B0006TPI66)

アウトテイク集的な位置付けである「Steal This Album!」を除けば3年半ぶりの3rdアルバム。今年中に発表されると言うもう一枚の「Hypnotize」と対になるアルバムと言うだけあって、11曲で36分とややボリュームは少な目。だが、聴き終わってからこれでまだ36分しか経っていないのかと思ってしまうほどの超ド級の密度とヘヴィネスを誇り、なおかつ極めてキャッチーに仕上がってしまっていると言う化け物アルバム。
イントロとなる#1「Solderside」の哀しげな調べから一転して#2「BYOB」はスラッシュメタル的なリフと過剰なまでに演劇的なヴォーカル、けだるげでR&B風のコーラスが何度も何度も交錯すると言うSystem of a Down以外の何者でもない強烈過ぎる一撃で、この曲を聴いただけでこのアルバムが傑作だと言うのがはっきりと解る仕組み。その後もポルカや彼らの出自であるアルメニアの民謡と思しきフレーズを取り入れて、ヘヴィミュージックの流儀に則りながらあっさりとそこから逸脱してみせる、あまりに独特でインパクトの強い曲がずらずらと並ぶ。全体的にメタリックなリフが増えてよりヘヴィメタル寄りになっている、と同時に前作よりも支離滅裂で強引な展開がやや減って多少ストレートな作りになっていると感じた。ただ、これは大人しくなったと言う意味ではなく、むしろ一曲の中に窒息しそうなほど多くの展開やモチーフを詰め込みながらそれらの繋ぎ目をよりスムーズに仕上げ、ポップミュージックとしてより強固に完結したものとする作曲能力の更なる充実がもたらした進化だと思う。故に、キャッチーさは更に上がり、アクはどうしようもなく強いもののポップと言っても差し支えないほどにどの曲も親しみやすくて、一曲一曲がとにかく一度聴くと耳から離れない。
収められた11曲はいずれも極めて優れている。どの曲にも荒れ狂う強大なエネルギーが篭められており、怒りと嘆きと(叛逆の手段としての)ユーモア精神と何も考えてなさそうなギャグとがない交ぜになって聴き手に襲い掛かる。破天荒で弾力性に富むだけでなく、ヘヴィメタリックな整合性と硬質さも加わって打ち鳴らされるバンドサウンドも強力ならば、聴き手をからかっているとしか思えない素っ頓狂な裏声から土砂崩れのようなラップ、哀感を込めた切なく優しい歌い上げ、それに革命家の演説のような堂々とした歌いっぷりまで変幻自在なサージ・タンキアンの歌声も神々しいまでのオーラを放っていて圧倒的。また、これまで以上にダロン・マラキアン(g)のバックコーラスが効果的に使われていて、楽曲がより劇的に、そして混沌としたものになっているのも素晴らしい。そして何より本作が優れているのはアレンジの巧みさで、トリッキーな仕掛けやアクロバティックな展開、ちょっとしたリズムの切り替えや#10「Old School Hollywood」の脱力するほどチープなシンセとヴォコーダーまで、やる事なす事全てが神がかり的なまでに噛み合っていて、全く文字通りの意味で全編がフックの塊になっている。中でも#5「RadioVidio」中間部のポルカ、#7「Violent Pornography」の本作中最も真っ当なメロディと最もバカバカしいラップと掛け声(?)のインパクト絶大な対比、それに#8「Quetion」や#9「Sad Statue」の非常にメタル度の高いアレンジと哀切極まりないメロディの組み合わせ辺りは本当に強力で、一気に耳を持って行かれる。やりたい放題やっているようで実は緻密、八方破れで無茶苦茶に衝動を撒き散らしたかと思えば次の瞬間にはジェントルで物憂げなメロディが顔を出す、そんなこのバンドの魅力がこれでもかと言うくらい露わになっている。どこまでも解りやすさ、単純な楽しさを投げ出さずにポップな作りになっているのに極まってコアである、と言うのは、ある意味ロック音楽にとって理想的なバランスだと思う。
バンドの勢いと言うか、充実の度合いが見事に反映された一枚、と言うべきだと思う。しかもこれほどのものを出しておきながらまだ半分、「Hypnotize」が控えていると言うのだから本当に底が知れない。真っ向からアメリカの矛盾を喝破して大統領批判をしながら決してユーモアを忘れず、極めてシリアスな姿勢とどこか享楽的な居佇まいが同居する本作を聴くと、荒ぶる神などと言うような古い言い回しを連想したりもする。言うまでもなく大傑作、「Hypnotize」への期待も否応無く高まる。