Qoph/Pyrola  (ASIN:B0007G8CYS)

Anekdotenの弟分的存在のバンドである、と言う事実はライナーノーツを読んで初めて知った事。だが、試聴機のポップにあった「60〜70年代そのまま」「やりすぎ」「プログレ」「北欧」と言う言葉を見て、冒頭の11拍子のベースリフと呪術的なドラムが絡む#1「Woodrose」を聴けば、何も知らない状態でもAnekdotenの名前が頭に浮かぶのは自然な成り行きではあった。スウェーデンの4ピースバンド、6年振りの2ndアルバム。相当な曲者だと思う。
北欧ならではの冷たいサイケデリアと暗鬱と朴訥さを下地に持ち、楽曲のあちらこちらに暗黒プログレのモチーフをちりばめながらも、音楽性は全くもって雑多で呆れるほどにごった煮。大音量の酔いどれブルーズロックのような要素もあれば、ハードロック以外の何者でもないラウドネスをブチ撒けながらの疾走もあり、そうかと思えば頭に花が咲いているとしか思えない能天気なサイケポップ感覚を押し出しもする。ゲスト参加の鍵盤楽器(ゲストは、Yngwie Marmsteen Bandのヨアキム・スヴァルバーグ、Mats/Morganのマッツ・エーベリー、Anekdotenのニクラス・バーグなどなど)がムーグやメロトロンやテルミンなどで楽曲にサイケかつどこか不穏なニュアンスを付けるものだからどの曲もえらく色彩感覚豊かだし、正しくプログレと言うような構築力を見せ付ける曲もあれば、だらだらとしたジャムから力技で練り上げたような曲も、ジャズロック的な演奏のやり取りを見せる曲もある。はっきり言って収められた楽曲の表情はバラバラで、おまけに一曲の中でも異なるモチーフが複数現れたりするが、ふらふらと頼りなく浮遊する歌い方とソウルフルなシャウトを使い分けるヴォーカルと、古臭いが味のあるギターの音色がアルバムに統一感を持たせている。また、頭で考える音楽になりがちなこの類のジャンルとしては、例外と思えるほどバンドサウンド全体に外向けのエネルギーと言うか熱気が漂っていて、そのエネルギーでもって一枚聴かされてしまう部分もある、と思う。バンドのアンサンブルは非常に強靭でしなやかだが、特に、畳み掛けるようにどかどかとフィルを撃ってくるドラムは格好良い。
一曲毎に詰め込まれたアイデアはやたらと多い。#2「Half of Everything」はサイケデリックなハードロックだし、#3「Korea」はアコギの音色とメロディの脳天気なイメージが徐々にヘヴィな演奏へと摩り替わってゆき、やがては緊張感のあるジャムから火花を散らすようなギターとムーグのソロへと雪崩れ込む10分の大曲。一つのリフを繰り返すバンドサウンドの上をアシッド極まりないテルミンが吹き荒れる#4「Travel Candy」はダークで朦朧とした感じが何とも言えず格好良いし、ツェッペリン風のリフを軸に組み立てたダルなブルーズロックが途中からいきなりDeep Purpleとタメを張るくらいの勢いで疾走し始めて狂騒をバラ撒く#5「Stand My Ground」、ミステリアスで奇妙なメロディとメロトロンの響きが耳に残る#6「Moontripper」、17分近くもアラビア風のギターフレーズで月の砂漠を延々と往くかのように引っ張る(が、何故かさほど冗長さは無く聴けてしまう)#7「Fractions」。そして#1「Woodrose」と並んで比較的ストレートな#8「Anticipations」。以上の8曲全てがこの程度の説明ではニュアンスを全く伝え切れないくらい様々な要素を内包しており、にも拘らずしっかりとこのバンドの音として一本筋が通った状態で鳴らされている。ちょっとこんな音を出すバンドは他にいないと思う。
独自性もアクも非常に強い上に情報量も多いために幾ら字数を費やしても説明し切れないが、ざっくり言ってしまえばLed Zeppelinの多面的な部分+寒い国のKing CrimsonであるところのAnekdoten。従って、The Mars Voltaとも共通性のある音だと思う(詰め込めるだけ詰め込んでおきながら、しなやかさを失っていない辺りなんかは特に)。好き嫌いがはっきり分かれてしまう一枚であるのは明らかだが、自分は今年今まで聴いてきたアルバムの中でも特に気に入ったし、何でもかんでも混ぜてしまう感覚とバンドサウンドの格好良さには、単なる懐古趣味に陥らない現代性とロックバンドとして極めて真っ当な熱さが備わっていると思う。お勧め。


オフィシャルサイトはこちら。#1「Woodrose」が聴けます。アルバム中最もストレートな曲だが、これ聴いただけでもこのバンドが何か変だと言うのは分かると思う。それから、何やらプログレプログレと連呼してしまったけれども、音像は割と普通のロックバンド然としたものなので、もっと広い範囲にアピールしうる一枚だと思います。