Adrian Belew/Side One  (ASIN:B00070EBSK)

レス・クレイプール(Primus)、ダニー・カーリー(Tool)と言うあまりにエグいリズム隊を迎えて製作された、と事前に聞いていたので非常に楽しみにしていたアルバム。この二人は九曲中#1「Ampersand」、#2「Writing On The Wall」、#3「Matchless Man」の三曲にしか参加していないようだが、ブリュー一人で作って演奏した曲も概ね良く、事前の期待を裏切らない仕上がりになっていると思う。
全体的に、意外に思えるほどKing Crimsonのフロントマンとしての姿を確信的に示す作りになっている。80年代クリムゾンの捻れたリズム+ニューウェイヴ的な浮遊感とリズム感覚が強く、そこに90年代以降のヘヴィネスやProjeKct 2辺りの即興・同期モノを駆使した音作りを散りばめていると言った感じ。本作で使われている曲作りの手法やギミック自体はさほど目新しさは感じず、むしろ馴染み深いものばかりだが、その一方で妙に新鮮な空気がアルバムに漂っていたりもするのが面白い。
#1〜#3まで三曲は、やはり三人で作ったと言う事によるものなのか、その新鮮味が最大限発揮されていて聴いていて痛快。とにかく手数が多く忙しない楽器隊のパーカッシヴな演奏の上にポップと言えなくもないが妙に人を食ったようなふわふわした感じのメロディが乗る「Ampersand」、ベタベタなディスコパンクだがやはり演奏の鋭さが尋常でなく、ファンキーなリズムの上にお馴染みの変態ソロと安っぽいコーラスが被さるのがえらく印象的な「Writing On The Wall」は本作中の白眉。タブラと似非エスニックなギターフレーズ、捉えどころのないメロディが絡み合う「Matchless Man」、そして穏やかなアルペジオと聴く人をリラックスさせるようなノイズ、優しい歌声が響く小曲の#7「Under The Radar」辺りのダウンテンポの曲もなかなか美味しい。ブリュー一人で全ての楽器を演奏している#5「Walk Around The World」はリズムがズレた二本のギターコンビネーションと言いメロディラインと言い全く80年代クリムゾンそのものの曲だが、宅録めいた事をやっているせいか曲と演奏が発する緊張感は冒頭の二曲以上だし、ドラムンベースをよりシンプルにしたようなリズムの上に様々なギターの音が自由自在に飛び回る#6「Beat Box Guitar」も、手法としてはやはりProjeKct 2そのままと言って良いにせよ純粋に格好良い。
本家とはまた別の角度、よりニューウェーヴ寄りの視点から80年代クリムゾンの再解釈を行っている、と言った手触り。不思議と使い回し感が薄い事と言い、曲自体の良さと言い、よく出来ているアルバム。9曲で33分と言う短さ、一定のリズムキープの上であまりにお定まりな不協和音を7分近く流し続ける#4「Madness」の面白みの無さ、曲として完結しておらず、SEに近い#8「Elephants」と#9「Pause」でアルバムが終わると言う構成には少々不満を感じるし、クリムゾンの手口にべったりなところにも疑問を覚えなくもないが、「Side Two」「Side Three」と同路線・コンセプトでリリースが続くようなので、それらも楽しみにしたい。続編が楽しみに待てるだけのポテンシャルを本作が持っているのは確かだと思う。