フジファブリック/フジファブリック  (ASIN:B00062RTFG)

フジファブリックの1stアルバムを今頃になって聴いた。
不自然なフレーズや聴き手がつんのめるようなリズムのトリックを散りばめて、作り出した違和感をそのまま楽曲のフックにする、と言う手法を多用するバンドと言う印象。要するに、ある意味でのワザとらしさがポイントなんだろうか。力強さが皆無な訳ではないが基本的に線が細いヴォーカルや素直でない曲展開、シンプルなようでいて妙にひねくれたメロディ運びなどには、確かに考え過ぎる人のための文系ロック(決して悪い意味で言っているのではない)の魅力が解りやすい形で提示されており、人気が出つつあると言うのも頷ける。
セピアがかったフィルムのように全体的にレトロな手触り。ブリティッシュロックや日本の古いロックの要素を不器用なまま飲み込んで、そのまま吐き出しているようないびつさが程よい緊張感に繋がっているところが面白い。#2「陽炎」、#8「サボテンレコード」などメロディの優れた曲も多く擁しているアルバムではあるが、メロディと歌声だけを聴かせる造りになっている曲は少なく、存外に躍動的なビートを打ってみたり(ディスコビートが多いが、これが上手くはまっている)前述の通り違和感を逆手に取るような妙に凝り倒した展開を見せたり、#10「夜汽車」の中間部でバロック調のフレーズを入れたり、と貪欲なまでに色々詰め込んでいる。が、楽曲を自分たちの掌中に収めきれていないと言う印象は受けないので、不思議と安心して聴けるところがある。あざとくなり過ぎないギリギリのポイントを弁えるセンスの良さがあるのだろうと思う。
ヴォーカルの声質やギターの音などはいかにもなギターロック風であまり新鮮味は無い一方で、楽曲を優しく包み込む雰囲気作りも、ちょっとチープな音色を使ってリード楽器的なパートもこなすキーボードの存在感は大きい。#4「追ってけ 追ってけ」のカンタベリーロックのようなソロや#6「Toyko Midnight」で突如差し込まれるサイケっぽいオルガンなどは特に印象的だが、どの曲でもキーボードは重要な役割を果たしている。ウワモノとしてでなく、ここまでキーボードを楽曲の内部に深く組み込んだ曲を作ってくるバンドはそうは多くないはずで、その辺りが彼らの強みの一つだと感じた。
絶対的な独自性や存在感を放つところまでは辿り着いていないものの、ポップスの旨みと捻れロックの面白みを併せ持つ音楽性。今後が楽しみなバンドだ、と改めて聴いてみて自分も思った次第。シングル曲のようにシンプルにメロディを表に出した曲と、頭でっかちで耳年増な部分がモロに出た曲と、聴く人の趣味によって大きく好みは分かれそうだが、個人的にはやはりと言うか何と言うか後者のタイプの曲が好き。特に喫茶ロック+カンタベリー+隠し味にダブ、な#4「追ってけ 追ってけ」、Pink Floyd的なキーボードとギターの絡みからいきなり騒々しいパート、更には「ハイスクール ララバイ」なメロディに移行する#5「打ち上げ花火」、King Crimsonの「Easy Money」を思わせる曲調がハードロックっぽいシャッフルに展開した後に「パジャマでパヤパヤ」などと真顔で歌い始める#6「Tokyo Midnight」と妙な曲が続くアルバム中盤が気に入っている。