ムック/朽木の灯  (ASIN:B0002J5374)

ヘヴィロックやメタルを基盤にしつつ、インダストリアル、パンク、歌謡曲やフォーク、童謡、ロカビリーなど、様々な音楽要素が透けて見える雑食性。90年代アメリカのヘヴィロックが得意とした「汚い」ヘヴィネス、攻撃的でダークなリフと叙情的なアルペジオ、ラウドなリズム隊。端正な声でポップかつ暗鬱なメロディを歌い、時に顔を歪ませて嘔吐するヴォーカル。耽美でどこか薄ら寒さを感じさせる歌詞。自己陶酔気味の過剰な演出の裏に見える醒めた表情。本作で初めて彼らの音に触れたが、美醜の極端な対比を旨とするバンドと感じた。
その美醜の対比は非常に上手く行っていて、メロディアスな面とヘヴィな面が互いを補い合っているのがどの曲でも印象的。基本的に良く練られたメロディを聴かせる事に重点が置かれているのでまず主役はヴォーカルだが、ヴォーカルとバンドサウンドとのバランスがアレンジの面でも音作りの面でもかなり良く、曲に仕込まれたフックが有効に機能しているため音のゴツさに反してとても聴きやすい。語尾をしゃくりあげながら喉を絞って歌っているためにかなり癖が強く、好悪がはっきりと別れるヴォーカルだが、バンドサウンドが作り出す空間をフルに使って歌詞世界を表現する堂々とした居佇まいは素直に格好良いと思う。楽器隊の出す音もかなりヘヴィで、特に歪んだベースが耳に残る。じめじめとした陰鬱さと土石流のような怒涛のブルータリティを取り混ぜながら楽曲を展開させてゆく様は実に堂に入っていて、巧い。ヴォーカルが美、バンドサウンドが醜、を表現するのが主だが、両者の役割がするりと入れ替わって劇的な流れを作り出す箇所があちこちに見られ、歌謡曲の影響がちらつくメロディ遣いともあいまって、一度聴いたら忘れられないインパクトが備わっている。既存のヘヴィロックの枠組みを超えて自分たちの独自の音世界を作り出そうとしているのが良く伝わって来るし、その試みは成功していると思う。意図するところとアレンジや演奏の技術、アイデアがしっかり噛み合っていると言う印象を受けた。
ダークな童謡を思わせるメロディと歪み濁ったギターのコンビネーションにのっけからガツンとやられる#2「誰もいない部屋」、潰れたラップと吐き出すようなサビのメロディが何とも痛々しい#3「遺書」、攻撃的なリフとスラップベースで一気に押し切る#5「濁空」、リフが格好良く、モッシュパートと寂寥感のある歌の切り替えにはっとさせられる#6「幻燈賛歌」と畳み掛けるアルバム前半の勢いの良さは強烈。彼らの懐の広さを感じさせる美しくも不穏な#8「2:07」を挟んだ後半も、「タッチ」のベースリフを借りるアイデアとロカビリーの色をほんのり感じる曲調が面白い#10「ガロ」、疾走感のあるメロディが印象的な#10「悲シミノ果テ」、解放感のあるアレンジと悲壮なメロディの対比が実に良い#11「路地裏 僕と君へ」、フォークから壮大な曲調に展開する#12「溺れる魚」、ラストのドゥーミーな大曲#15「朽木の塔」と楽曲は粒揃い。聴いていてとにかく飽きないし、大仰かつ過剰だが音もアレンジも絞り込まれて装飾過多に陥っていないのも良い。耽美色の強さはやはり人を選ぶが、非常に格好良いロックアルバムなのは間違いないと思う。