Air/One{2004.1.10 yokohama arena}  (ASIN:B0001J0DSY)

この間のSylのライヴDVDの時に書き忘れていたが、DVDの感想もCD感想と一緒のカテゴリにする事にする。そうした方が解りやすいので。
で、これはタイトル通り今年の1月に横浜アリーナで行われたライヴの模様を収めたもの。MCがほとんどカットされているため、純粋に曲の流れを楽しめるようになっている。セットリストは、「One」全曲を始めとして、その他のアルバムからも「One」が持つ穏やかでメロウな雰囲気に沿ったものが多い。「My Life As Air」「Freedom 99」「Flying Colors」のラウドロック路線の曲は無し。ファンキーな曲も幾つか選ばれているが、基本的にメロディを主体に持つ曲が選ばれている。
ベース、ドラム、パーカッション、キーボード、ピアノに加えて管楽器4人、弦楽器4人と大所帯のバックバンドを従えて演奏される名曲の数々。どの曲でもすごくメロディが良く、そしてそれを歌う声が良い、と言う事が改めて確認出来る。「Funk Core」「Liar」「Tell Me More」のゴージャスなノリの良さ、「Honey Cow」「運命はいくつもある」の妖しさ、「24 Years Old」の緊張感、「Goldfish」「Starlet」の美しさ、「Sea Of The Bed」のユーモア、「夏の色を探しに」「Last Dance」の切なさ、「Hair Do」の多幸感。とてもカラフルで、ポップで、楽しい。そして、すごく嬉しそうにギターをかき鳴らし、センチメンタルで優しいメロディを美しい声で観客に語りかけるように歌うAirの立ち居振る舞いには、こちらの眼を惹き付けて離さない魅力が感じられる。その魅力の質が、時には優しさだったり時には鋭さだったり笑顔だったり、時には一緒に身体を揺り動かしたくなるような楽しさだったり触れれば消えてしまいそうな儚さだったり、とその時その時で変ってゆく。その多様性がそのまま楽曲の触れ幅の広さ、つまりポップミュージックとしての強さと繋がっていると観ていて感じた。
何となく、Airの諸作品、特にポップな方向に振れたアルバムに関しては、スタジオ音源だけで満足出来るなあと今まで思っていたんだけれども、こうやって映像込みでライヴな音を聴いているとやはり躍動感が違う。特に、Air本人の次に良く画面に映っていた渡辺等・佐野康夫のリズム隊は出音・居佇まい共にものすごく格好良くて、この二人が画面に映っている時は、これが坂本真綾のリズム隊なのかなどと間違った感想を抱きつつもやはり目が向いた。その他の楽器隊も隙の無い演奏振りで、演奏によって曲の良さが本当に際立って感じ取れる。管楽器・弦楽器が多く、音が分厚くなっている事がプラスに働いている曲もそうでない曲もあったが(管楽器が入る曲にこう感じたものが幾つかあった。Air本人の声量が小さく、管楽器隊の出す音とアンバランスなため)、どの曲もスタジオ盤とはまた一味異なるアレンジを楽しめるのも良い。また、「24 Years Old」の後の、ドラムとパーカッションの3分近くにも及ぶセッションはライヴのハイライトの一つだと思う。
映像には特に凝ったところも無く、またステージングやライティング自体も割とオーソドックスなものなので、素直にライヴのドキュメンタリーとしてまとめられている感じ。このライヴに行った人はこれを観て追体験が出来るだろうし、俺のようにAirのライヴは生も含めて初めて観ると言う人には、過不足無く彼のライヴがどのようなものか感じ取れる出来。突き抜けたところはあまり無いものの、映像の造りも演っている音楽からも作り手の誠実さが伝わる、ウェルメイドなライヴDVDだと思う。映像をゆったり観ながら音楽を感じるのも良いが、むしろさらっと流しているのに向いているような気がする。