Strapping Young Lad/For Those Aboot To Rock  (ASIN:B00062IYEG)

デヴィン・タウンゼンド率いるエクストリーム・インダストリアル・ヘヴィメタルバンドのライヴDVD。大体70分くらい、と数字で収録時間を見てみるとちょっと短めのような気もするが、音数=情報量の多さ、出音のタフさ、バンドの存在感、それらが一体になっていて、物凄く密度の濃い時間になっているために、実際に観てみるとお腹一杯。
演奏している曲は、現時点での最新アルバム「Syl」から7曲、「City」から4曲、「Heavy as a Really Heavy Thing」から2曲、そして「Far Beyond Metal」。と言う訳で、「Syl」の残虐で乾いていてあまり機械臭のしない感じがライヴでも再現されているんだろうかと買う前にセットリストを見た時は思ったが、実際に観てみるとそうでもない。かと言って「City」のバリバリにインダストリアルな手触りとも違って、もっと人間味のある感じ。デヴィンを始めとして、バンドが楽しみながら演奏をしていて、それを観客(600〜700人くらい入るところがほぼ埋まっている感じ)がしっかりと受け止めていて、アットホームな雰囲気すら随所に感じられるのは意外だった。
そうは言っても音の方はやっぱりひたすらに硬くて速くて重くて凶悪。キーボードがバンドサウンドを包み込むように鳴っているため割と全体の輪郭は捉えやすいが、恐ろしくソリッドな音が絶え間なくこちらの耳に絨毯爆撃を仕掛けてくる上に、画面を2〜5に分割して複数のアングルを同時に見せる手法を多用しているため、視覚的にも情報量がやたらと多く、観ているとクラクラしてくる。演奏力やバンドサウンド総体としての強靭さはもう折り紙付きで何も言う事は無いが、中でも本当に人間なのか疑わしいまでの殺人ビートを平然と叩き出すジーン・ホグランのドラムは解っていても唖然とするほど強烈。200キロくらいありそうな巨体とドラムセットが一体化しているかのような錯覚を抱かせる立ち居振る舞いはとにかく格好良く、半ばアタマがイってしまってるような表情を時折見せながら落ち武者ヘアスタイルを振り乱してメロディアス極まりない咆哮を叩きつけるデヴィン・タウンゼンドと共に異様な存在感とカリスマ性を撒き散らしている。この二人に比べると、いかにもメタルなポーズを随所で決めるジェド・サイモン(g)のナイスガイな居佇まいと、動き自体は多くないがゴツくて見栄えのするバイロン・ストラウド(b)は少し目立たない。もっとも、それはデヴィンとジーンの存在感が余りに突出しているためであって、残りの二人もやはり格好良くはあるが。
前述した通り、緊張感の中にもライヴの空気を楽しむ雰囲気がバンドにも観衆にもあるためか、極度にダークで「怒」の感情を凝縮した結果少々取っ付き辛くなっていた「Syl」の曲が随分聴き易くなっていると思う。特に元々良い曲だった「Aftermath」と「Force Fed」がスタジオバージョンよりも更に格好良く魅力的になっていたのが印象的だった。ラストの「Far Beyond Metal」で観客を一人ステージに上げてサビを歌わせているが、どうしようもなくグダグダで情けない彼のヴォーカルをバンド全員でやたら盛り上げているのが妙に笑えた、と言うところも含めて、彼らのライヴの雰囲気、凄味がしっかり封入されたライヴDVDだと思う。