もみじだこん

先週末は湯治場に行って温泉でだらだらしたり(すごく小さな、一人用の貸切露天風呂がめちゃめちゃ気持ちよかった)、そろそろ見頃の紅葉や道沿いにぽつぽつとある滝を観たり、と何とも爺むさい事をやってました。ああでもこういうのって落ち着くな……何と言うか、馴染む。しっくり来る感じ。
紅葉を観ながら山間の道をゆるゆる進んでいるうちに、九酔渓温泉ってところの展望台兼休憩所兼茶屋みたいなところに着いて一休みした。そこは、焼き団子を売っていたり鮎の串焼きを売っていたりして食べ物を焼く匂いがあちこちから漂ってくるし、動き回りながら呼び込みしたり売り口上を大声で並べていたりする店員さんがそこかしこにいるので、こういう山奥の休憩所にありがちな鄙びた感じがあまり無くて、妙に賑々しいところだった。人も多いし、何だか活気があるなあ……と思いながら、小腹が空いたので鮎の塩焼きを食べようと店員の人に声をかける。
はいよー、と応えながら下を向いて火鉢を見ていた店員さんがこっちを向いた。彼の顔は、デーモン小暮閣下のように白塗りで頬骨やアイラインを強調するような不自然な陰影がついていて、鼻の頭が紅く、それからヒゲが三本ずつ頬に描かれてあった。
何それ。
一瞬頭が真っ白になったが、とりあえず金を払って鮎を貰って一口食べる。美味い。で、ひとしきり食べてから、落ち着いて茶屋を見回すと、店員はみんな彼と同じように白塗りのメイクをしているのだった。どうも、デーモン小暮閣下ではなく狐のメイク、と言う事らしい。多分、何かこの九酔渓の由来と狐とが関係あるのだと思う。
それにしても、始終あの白塗りでは肌が荒れそうだなあ、と思いながら店の中で土産物を眺めていたら、店員の一人(やはり狐メイクをしていて年齢ははっきりとは解らないが、多分二十歳くらいの娘さん)が呼び込みで声を張り上げているのが耳に入ってきた。
「いらっしゃいませー、いらっしゃいだこん! お食事をされる方は、先ず食券をお買い求め下さいだこん! 名物の、おろしそばはいかがだこん!」
……。
うわあああ可愛いいい。
来て良かったと心底思いました。ああ、いや、ほら、景色も本当に綺麗だったので。