《秋のエルドラド飛騨へ成績優秀者一名様ご招待、ただし移動手段は現地までハンググライダーのみ》みたいな

進学塾のビルの前を徒歩で通りがかった時、入り口のところにでかでかと毛筆で「たゆまぬ努力で 飛騨の秋」と大書されてあるのを見かけた。
たゆまぬ努力で、飛騨の秋。
勉強を沢山頑張って、血管が千切れる程頑張って、塾の中でテストをする。そして、そのテストで一番になった者には、勉強を頑張ったご褒美として塾から飛騨旅行がプレゼントされる。そんな状況を、このスローガンから推測する事が出来る。
しかし、この進学塾は主に小学生と中学生を対象とするところだと聞いているが、小中学生が飛騨に連れて行って貰って嬉しがるだろうか。江戸時代の空気を残す町並みを散策する事に喜びを見出すだろうか。飛騨の山中で取れる川魚や山菜に舌鼓を打ち、露天風呂に入って熱燗をゆるりゆるりと飲む事に幸せを感じるだろうか。日なが一日温泉浴衣を羽織って旅館の部屋でごろごろと過ごす事に充足感を覚えるだろうか。俺にはそうは思えないが。そしてもし、仮にそんな渋過ぎる趣味を持つ小中学生がこの塾には集まっているのだとしたら、それは何だかイヤな塾だなあ。
そんな事を考えながら、もう一度そのスローガンを見た。
「たゆまぬ努力で 飛躍の秋」
……。
俺の思考が飛躍する秋。