Acidman/Equal  (ASIN:B0002MOLYM)

1stの「創」がポップなメロディとカラフルな曲調による万華鏡、2nd「Loop」が白いレーザーライトの一点集中的な攻撃力と熱量、だとすれば本作は澄み渡った光と水の波動が一杯に伝わってゆく透明な空間の奥行きと広がり、と言った感じか。立体的な音作りの巧みさは飛躍的に増しており、シンフォニックなギターノイズと艶やかにうごめくベース、驚異的に鋭いドラムが作る正三角形の波紋は更に美しく、表現力豊かになっている、と思う。
アレンジの妙を活かしたトリッキーな曲は減った。攻撃的なザラつきも力強さも減った。メロディのキャッチーさは前々作及び前作と比べるとかなり減退している。代わりに前面に押し出されたのは、#1「0=ALL」#4「イコール」#6〜7「彩 -sai- (前編・後編)」#12「廻る、巡る、その核へ」などの曲タイトルに現れているトータルアルバム的な構造の力、前述の立体的で繊細な音像の構築力。それから、素っ気無く地味なようでいて、聴き込むほどに浮かび上がってくるメロディの美しさ。それらが、どこかプラスチックの匂いがする人工的で無機質な、それでいて透明感溢れる筆致によって鮮やかに描かれている、と言う感じ。ダンスミュージックを意識したリズムや装飾音の取り入れ方もこなれていて巧み、スローテンポの曲での静と動のパートの切り替わりは鮮烈。一音一音から、自分達が思い描く理想の音を具現化しようとする強い意志を感じられる。前作から更なる飛躍を目指す渾身の一枚、と言える。
ただ、このアルバムはどうも今まで以上に「閉じた」感触が強く、そのため聴いていて息苦しさを感じてしまう。(非常に抽象的な説明で申し訳ないが)外へ外へと広がって壮大な音風景を描き出すようデザインされたはずのギターノイズが、逆に意識の拡張を阻む壁となって意識を内へ内へと閉じ込めるよう作用している、と言う印象を受ける。思考のノイズを捉えて言葉にしたような抽象的かつ思索的な歌詞、美しいけれども決してキャッチーでもポップでもないメロディともあいまって、意識がひたすら自分の内側に向かって落ちて行くような感じ。そして、そういう視点に立って聴いてみると、ギターノイズとシンセ音による空間表現、抽象的な言葉遣い、アルバム全体を一曲として捉えさせる「イコール」と言うコンセプトが、良くない意味でのプログレ的/ポストロック的/セカイ系的虚仮脅しに感じられて来てしまう。ベースの暴走が今までになく控え目な事もあり、バンドサウンドからは肉体的な格好良さが、音全体からは実体感や真実味や焦燥感が薄まってしまっている、と言うのが非常に残念。
そう言う訳で、聴いていて首を捻る事が多く、何となく行き詰まりも感じさせる本作。深化は果たしていても新たな聴き手はあまり獲得出来そうにないが、完成度や聴き込み甲斐はやはり相当なもの。聴けば聴くほど魅力が増してくる変幻自在の音空間は本当に瑞々しく美しいし、バンドの気概も十分感じられる。しかし、どうにもシリアス過ぎて余裕が無い造りであり、なおかつ意識が外に向かって行く力強さに欠ける、となれば「優等生が頭で考えた音楽」と言う批判は跳ね返せない、とも思う。一片のユーモア感覚や、思い切ってポップな方向へ振り切る開き直りが今後必要になるのではないか、と思った次第。