Zazen Boys/Zazen Boys II  (ASIN:B0002MOMB4)

鋭いカッティング、椎名林檎のコーラス、ブチ切れたドラム、グルーヴィにのたうち回るベース、向井秀徳のラップ……が完全に融合した#2「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」が突出して良く、圧倒的な輝きを放っているが、全体としても前作よりかなり鍛え上げられていると思う。前作が実験精神を衝動のままにブチ撒けてから力任せに詰め込んだような感じ、だとすると、本作はそれを諸々の要素をある程度ポップミュージックの作法に則って並べ立てているような感じ。とは言っても相変わらず無作法と言うか破天荒と言うか、異形の音なのには変わらない。ただ、印象的なメロディ遣いや変拍子ではあるがノリやすいリズムは増えているし、バンドサウンド以外の音……コーラスやオルガンやちょっとチープな打ち込み音をそこかしこで使っていて、幾分伝わりやすさにも配慮しているのが伝わって来る。
前半が特に良い。前述の「CRAZY DAYS CRAZY FEELING」、前作の「YURETA YURETA YURETA」「IKASAMA LOVE」を更に暴力的にしたような#3「NO TIME」、椎名林檎のバックコーラスと捻れたビートが強烈で、そこにオルガンが絡むのも刺激的な#4「安眠棒」、裏声と甘くセンチメンタルなメロディが美味しい#5「You Make Me Feel So Bad」……と一つずつ挙げるとキリが無いが、アルバム前半のテンションと曲の質は異常なほど高いと思う。ヴォーカルにかかったリヴァーブが懐かしさすら感じさせるナンバーガールの自己パロディ#7「黒い下着」だけは明らかにアルバム中で浮いているが、まあこれはサービスのようなものと捉えれば良いのだと思う。
その前半と比べると後半は少々息切れ気味で、収録曲数が15曲と言うのは少し多過ぎるような気もしたが、ともあれヒップホップ、ファンク、ソウル、パンク、アヒトイナザワが叩き出す唯一無二のリズムの掛け合わせ・融合は前作から更に磨き込まれている。大きな路線変更などはなく、順当な第二手ではあるが、完成度やバンドサウンドの纏まりの良さは本作の方が数段上。前作から9ヶ月しか経っていないアルバムとは(しかも、その間ずっとライヴしていたし)信じ難いほどの力作。そうそう、付け加えておくと前作では篭り気味でバンドの力量を正しく伝えているとは到底思えなかった音作りがかなりラウドかつ広がりのあるものになっていて、これもまた本作を解りやすいアルバムとするのに大き貢献していると思う。
だが、「繰り返される諸行無常」「よみがえる性的衝動」を始めとして、あまりにも歌詞に同じフレーズが使われ過ぎる事や、向井秀徳のユーモア感覚(あの「ゥヴォーィ」てのはネタなのか? それともヒップホップのマナーを真似ているんだろうか)からは……どうも外に開けた感じがしないと言うか、ターゲットを狭い層に限定していると言うか、根本的なところでポップでない印象を受ける。「向井秀徳だから」と言うのを言い訳にしているような感じで、そこだけはすごく気になった。


しかし、何だか留保付きの格好良さと言うか、自分の感覚では間違いなく格好良いんだけれども人に勧めるのはちょっとばかり躊躇ってしまうような音になってきてるなあ。そういう意味でZAZEN BOYSはヘヴィメタリック。特撮とも似ている。