Misery Signals/Of Malice and the Magnum Heart  (ASIN:B000255LK2)

プロデューサーにデヴィン・タウンゼンドを迎えている、と言う一点で興味を持って買ってみた一枚だが、これが実に素晴らしい。ブルータルでありながら繊細で美しく、切れ味の鋭さやベタ付かない乾き具合を備えながらも叙情的な、広義のヘヴィメタルアルバム。
あまり詳しいジャンル付けに関する知識は無いので断言は出来ないが、いわゆるニュースクールって事になるんだろうか。重心の低いモッシュパート、無慈悲に地面を打ち砕く掘削マシンビート、スラッシュメタル由来のソリッドな突進や北欧メロデスっぽいギターフレーズ、カオティックな不条理展開などを混ぜ合わせた超高機動ヘヴィミュージック。一曲一曲が非常に複雑かつ重層的な構造になっており、変拍子や唐突な場面転換を多用するためにプログレッシヴな印象も強い。だが、本作において最も特徴的なのはプロデューサーであるデヴィン・タウンゼンドの「Biomech」「Infinity」「Terria」辺りに通ずるような、透明感と広がり/奥行きのある美しいクリーンパートが多用されている、と言うところだと思う。刻一刻と表情を変えつつ複雑でゴリゴリと迫り来る曲展開に翻弄されている最中にいきなり現れるクリーンな音響は、さながら乱気流に満ちた積乱雲を抜けた後に視界一面に広がる青の美しさ。メロディ遣いによって盛り上げるよりも、曲の構造・展開そのものをダイナミックかつ劇的に仕上げる手法からは、何となく(デヴィン繋がりで)Soilworkを思い起こさせたりもするが、実際ここ数作で彼らが見せるスケール感・開放感に近いものを持っていると思う。
複雑な楽曲を具現化するバンドサウンドは鉄壁と言っても過言でない程の強度。ちょっとドリルンベースっぽい(と言うと語弊があるか。非常に細かく、ちょっとしたリズムの息継ぎに独特のものを感じる)フィルの入れ方が格好良いドラムと低音部をガッツリ支えるベース、ヘヴィネス全開のパーカッシヴなリフからあまりに美しいアルペジオまで変幻自在なギター、いずれもがえらく高性能で、攻撃力殺傷力と共に純粋な轟音の快感が備わっているのが痛快。バンドサウンドと互角に渡り合って腰の入った咆哮を轟かせ、#10「Difference of Vengeance and Wrongs」では切ない歌い上げも聴かせるヴォーカルに、マッチョなイメージよりも焦燥を感じさせるナイーヴさが宿っているのも実に良い感じ。また、歯切れが良くクリアなサウンドプロダクションは、ブルータルで容赦なくゴツい音にどこか思慮深い印象を付け加えていると思う。
少々頭でっかちで聴き手を置き去りにしがちと言うか、展開に凝り過ぎて曲の輪郭がぼやけてしまっているところはあるし、一つ一つのパーツの格好良さが曲全体の格好良さに直接結びつかないもどかしさを感じたりもする。だが、聴き重ねているうちに段々とそれが気にならなくなり、深遠かつ透明な世界観にどこまでも落下してゆくような感覚も、またある。この攻撃性と美しさのバランスは本当に見事。聴けば聴くほど良くなっていく傑作アルバムだと思う。それにしてもデヴィンが手がけるアルバムは外れが無い。