Nightwish/Once  (ASIN:B0002CHOUA)

アルバムの初っ端、#1「Dark Chest Of Wonder」を聴いて驚いた。こんなにアグレッシヴな音を出すバンドだったっけか?
衒いの無い正統派メタルに正規の声楽の訓練を受けた女声ソプラノが乗り、シンセによる映画音楽的なオーケストレーションが重なる、と言う基本路線は変わっていないものの、本作では生オーケストラが全面的に導入されていて、その効果はやはりデカい。音像の広がりや深みが段違いで、元々このバンドが描き出そうとしていた幻想的で壮麗な世界に非常に強固な「実在感」と言うか、フィクションとしてのリアリティと言うか、そういった説得力が与えられている。
ただ、その説得力はオーケストラ云々によってのみ生み出されたものではなく、サウンドプロダクションの向上やバンドサウンドの強化も重要なポイントだと思う。4thアルバム「Century Child」は未聴で、3rdアルバム「Wishmaster」から直接本作を聴いているんだけれども、少なくとも前々作の段階から比べると、遥かにバンドサウンドの鋭さ、攻撃性、分厚さが増している。最初にCD屋で本作を試聴した時、その変貌振りに間違って別のアルバムを聴いたかと勘違いしてしまったが、それくらいバンドサウンドは強靭になっているように思えたし、その成長を十全に伝えるサウンドプロダクションは、生々しさと作り物めいた硬質な感触のバランスに優れている。
音楽性に大きな変化は無いと書いたけれども、曲のバリエーションは豊か。オープニングのあまりの迫力にぶっ飛ばされたすぐ後の#2「Wish I Had Angel」の4つ打ちっぽいリズム(と、彼らの音楽との相性の良さ)には驚かされるし、トライバルなテイストを上手く取り入れて壮大なイメージを描き出す#5「Creak Mary's Blood」は圧巻。#7「Dead Gardens」と#8「Romanticide」はアメリカっぽい要素と言うかヘヴィネスとグルーヴ重視のリフ遣いがえらく格好良く、彼らの母国語で歌われるバラード#10「Kuolema Tekee Taiteilijan (Death Makes An Artist)」も、フィンランド語の神秘的な響きが彼らの作る曲のイメージと実に良く合っている。一方で、従来の路線をそのまま踏襲する#3「Nemo」#6「The Siren」#11「Higher Than Hope」辺りも実に良く、10分超の大作「Ghost Love Score」でも冗長さは感じさせない。要するにアルバム全体に渡って隙が無い、非常に完成度の高いアルバム、と言う事だと思う。洗練が進んでいるのと引き換えに、以前のクサ味は鳴りを潜めているが、その辺は個々人の好みの問題か。このバンド特有の、ある種の冷たさは健在だし。
個々の要素や全体の完成度と言った点だけで考えても本作は堂々たる充実作だが、このアルバムを聴いていて一番心を動かされるのは、伝統的なヘヴィメタルを見直す最近の流れや、割と似通った音楽性を持つエヴァネッセンスの成功、など等の追い風を得て、本気でヘヴィメタルのフィールドに留まらない商業的成功を狙う健全な野心・気概が音から滲み出ているところ。優美さと力強さが共存する本作を一層魅力的なアルバムにしているのは、その攻めの姿勢だと思う。
エヴァネッセンスを気に入っていた方の他にも、MUSEの過剰の美学を良しとする方にもお勧め出来るアルバム。勿論、ヘヴィメタルリスナーには必殺の一枚。