Throwcurve/Retro Electric Mother  (ASIN:B00024Z7WU)

前のミニアルバム「レディオフレンドリースロウカーヴ」を聴いてから殆どインターバル無しに本作を聴いたからか、前作との差、進歩したところがかなり目立つ。何と言ってもバンドサウンドの出音全体が肉厚になっているのが大きく、曲の良さを演奏がしっかり受け止められるようになっていると感じた。ヴォーカルも歌い方に不安定さがあってどうにもパワー不足だったのが大分解消されて、安定した歌を聴かせるようになっている。安心して聴き進められる。
前作を聴いてこのバンドの大きな魅力だと感じた部分、楽曲の捻れ具合は、安定感が増した演奏・歌唱を土台にして、更に研ぎ澄まされているように思う。一押しすれば崩れてしまいそうな危ういバランスで曲が成り立っているのに、あくまでメロディは甘くポップで、メロディとリズムの大枠を決めてしまったら後は各人が割と自由に音を鳴らしている、と言う感じ。サウンドプロダクションが向上したせいか、各楽器が付かず離れずの距離感で音を繰り出しているのがよりはっきり解る。ポップなメロディの下で、不条理なギターフレーズやうねうねと妙にエロく動き回るベースラインが、曲の主題となるリズム・メロディから微妙にズレながら繰り出されていて、聴いていて不安定で不穏なイメージが沸き起こってくるのは、やはりとても面白いと思う。優しさと皮肉気な眼差しと内省と攻撃が分離されていない状態で断片的な言葉になった歌詞もこのバンドのスタイルと良く合っていて、漠然と不穏な気配を抱え込みながらもポップなメロディや優しい言葉を構えない態度で綴る、と言う姿勢が楽曲・歌詞の両面で現れている。また、トリッキーな曲の作りではあるが頭で考えたような小賢しさや、必要以上に未熟さを押し売りするあざとさがあまり感じられないのも好印象で、メロディやヴォーカルの甘さから来る第一印象に反して、かなり骨太なところがあると思う。
#2「ノーモア」#3「ドーナツと魔法と針」#4「無音ノート」はいずれもメロディの良さとバンドサウンドの捻れ具合が絶妙のバランスで組み合わさった佳曲で、この前半の流れが非常に良いが、後半も、本作中最も攻撃的な#6「ハッピー」、ノスタルジックな#7「レム」、拗ねが入ったメロディが何やら可愛らしい#10「ベッドタイマー」など、挙げようと思えばどの曲も挙げられてしまうくらい良い曲揃い。曲作りのセンスは際立っていると思う。ライヴでの定番曲、と言った風情の隠しトラック(名前は記されていない)も他曲よりストレートなメロディがなかなか美味しい。
二、三の言葉で聴き手に強烈な印象を残す歌詞や決定的なサビメロがある、と言うようなアルバムではない。また、ちゃんと聴けばメロディは豊かだが、その一方で何気なく聴き流してしまうような起伏の乏しさもあると思う。そう言った部分に弱さを感じるし、大幅に改善されたとは言え演奏には今一歩の鋭さとここ一番での爆発力が欲しいが、諸々の詰めの甘さを差し引いても十分にお釣りが来る程に本作の「不穏だが優しい」と言うのは独特だし、聴けば聴くほど深みにはまっていくような不思議な魅力がある。優しく日常を逸脱する(とは某ゲームのキャッチコピーの引用だが)いいアルバムだと思う。弱点が見られるのは伸びしろが十分にある事の裏返し、これからもっと面白い存在になってゆくのが楽しみ。