そのオムライスは、痛い

近所でやってる韓国風焼肉屋の「石焼オムライス」と言うのが辛いけどとても美味しい、って話を聞いたので、昼に食いに行った。席に着くとすぐにやって来た店員さんにランチの石焼オムライスを、と頼む。すると、
「辛さはいかがなされますか? 普通、辛め、やや辛、××××とございますが」
と聞いてきた。××××の部分は発音が不明瞭ではっきり聞き取れなかったが、そこまでの三段階の並びからすると四つ目はきっと「辛口」なのだろうと判断し、折角辛いものを食べに来たのだから話しの種にもなることだし一番辛いのを頼んでみよう、と考える。
「じゃあ一番辛いので」
「はい、かしこまりました。(奥に向かって大声で)激辛一つ入りましたー」
そんな話聞いてない。
だが、店員さんを呼び止めるタイミングを完全に逸してしまったので、そのまま注文が通ってしまった。どうしよう、と内心の動揺を隠しながらオムライスが来るのを待つこと数分。目の前に置かれた石焼オムライスは、赤かった。と言うか、紅かった。明らかな危険色。自分の蒔いた種とは言え、ちょっと逃げ出したい気持ちになった。なったが、食べないわけにもいかないし何より勿体無いので、勇気を振り絞ってスプーンで掬って一口食べてみた。
……。
辛さは限度を越すと痛さになる、という事が身に染みて解った(解りたくもなかったが)。掛け値なしに舌が痛い。しかも、一度スプーンを置くと二度と口を付けられそうにない気がするので、食べるのが止められない。こんなに辛くなければきっと美味しいんだろうな、と言うのがおぼろげながら感じ取れるのがまた非常にタチが悪い。泣きながら食べた。比喩表現でもなんでもなく、身体中の毛穴が開いて汗と一緒に涙がぼろぼろ出てきた。自分の愚かさを呪った。俺の様子が余りに酷かったのか、さっき注文を取りに来た店員さんに「大丈夫ですか?」と心配された。(オマエのせいで……!)などとも思ったが基本的に俺の自業自得だし、ここで文句をつけてお冷を持って来てくれなくなると完全に命数が尽きる気がしたので耐えた。俺どうしてこんな思いをしてるんだろう、と思いながらものすごい勢いで食べた。何とか完食したが、空疎な気持ちになった。
話の種になる、と言うだけで飯を選ぶのは止めようと心底思った。もうこんな真似はしない。


後日談。
父にこの話をしたら、こんな話をしてくれた。
「俺もこの前ココ何とかってカレー屋に行ってな、辛さが選べるって書いてあったけん、話の種にと思って二番目に辛い奴(9辛)にしたんじゃ。そしたら辛くて辛くてたまらんやった。ありゃマトモな人間の食うもんやないわな」
親子。どうしようもないくらい親子。