椿屋四重奏/深紅なる肖像 (ASIN:B0001M6IVM)

アコギ一本をバックに歌われるボッサ調の#1「ぬけがら」が余りに良かったので買ってしまった。日本語のみで綴られ、しかも文語調が多用される歌詞から連想される硬いイメージをそのまま具現化した硬質な3ピースのバンドサウンドもなかなかだが、その上に乗るメロディとヴォーカルが何と言っても良い。ウェットで艶っぽい声質とあまり吐き捨てたり叫んだりせずに丁寧にメロディを綴る制御された歌唱が何とも魅力的なヴォーカル、安全地帯とか井上陽水とかをストレートに連想させる(件の「ぬけがら」はそれがモロに出ていて、インパクトが大きかった)日本的情緒と憂いと翳りをたっぷり含んだメロディは非常に魅力的。しかも、堂々としたメロディ運びや立ち居振る舞いには「敢えて今歌謡曲」みたいな飛び道具的なイメージが皆無で、なおかつ歌謡曲が影響を受けてるソウルミュージックシャンソンまでまとめて飲み込んだような深みを感じるってのが好印象、と言うか自分の好みのツボにぴったりハマってる感じ。そう言った懐の深さの反面、キワモノって表現がぴったり来そうなベタベタの和風フレーズがそこかしこで聴かれる、と言うアンバランスさには少々鼻白まされるが、洗練されたメロディや歌唱と余りにベタなギターフレーズとのギャップがまた面白くもある。
アルバム前半の流れが特に良い。「ぬけがら」の余韻をヘヴィなベースラインが切り裂く#2「終列車」、AメロBメロサビと起承転結のはっきりしたメロディの流れが美しくも激しいアップテンポの#3「成れの果て」、緩やかに刻まれるリズムとけだるげなメロディの相性が抜群で、メロウなギターソロも聴ける#4「硝子球」とここまでの異様なテンションの高さがめちゃめちゃ好き。後半は前半に比してやや勢いが落ちる印象があるが、#8「小春日和」や#10「嵐が丘」に見える穏やかで優しい表情も印象深い。
歌詞、メロディ、曲作りからバンド名やジャケ等のイメージ作りまで含めて、非常にコンセプトがはっきりしていて、なおかつコンセプトが看板倒れにならないだけの地力や深みも感じさせる、いいバンドのいいアルバムだと思う。王道と言うよりは「正調」って言葉が似合いそうな印象。
曲が長めなのが時に冗長に思えるところ、充分な強度ではあるがもう一声の鋭さが欲しいバンドサウンド陰陽座辺りと比べてもあからさまで露骨な和風フレーズの取り入れ方、など現段階では随所に詰めの甘さも残るが、それだけにこの先がすごく楽しみ。
余談。帯に「すべてのロック幻想を受け止める」ってコピーがあって、それを見た瞬間、そのロックってまたどうせメタルは抜きなんだろうなーなどと考えてしまった陰湿メタラーなんですが、#7「空中分解」ではリフや中間部のギターワークにメタルっぽい手触りがあって驚いた。