着物

朝。バスに乗って座席に座り、一息ついてから何となく周りを見回すと、俺のすぐ前の席に50代絡みのおばちゃんが座っているのが見えた。彼女は和服を着ていたんだけど、深く腰掛け過ぎていたせいか着付けが拙かったのかそれとも最初からそういう着物だったのか、後ろ襟がかなり浮いていて、そこからうなじとか首筋とか肩口とか、いかにも贅肉って感じの白い肉が見えてしまっていた。和服に合わせての事か、ちゃんと髪を結い上げていて肉が後ろ髪に隠れたりもしないので、前を向いている限りイヤでもそれが見えてしまう。
通勤・通学時間からはちょっと外れてるとは言えバスはほぼ満員状態だし、俺の隣にも当然人が座っている。そういう状況だったので、自分の目の前以外に視線を逸らすのが難しく、結果的にそのおばちゃんのうなじの辺りを見るか、そうでなければ寝た振りでもするしかないと言うシチュエーションに何時の間にか追い込まれてしまった俺は、眠くもないのに目を閉じて駅前バス停に着くまでの15分間じっとしていた。
何と言うか、キツかった。朝からとっぷり疲れた。