本の種類

夕方。本屋のレジに並んでいると、俺の前に居た30ちょい手前くらいの女の人が連れていた5つか6つくらいの男の子が「ママ、ママ」と泣きそうな声で騒ぎ出した。すると、母親らしいその女性は「しッ!静かにしなさい!」とかなり強い調子で男の子を叱り付けてからレジの店員に持っていた本を渡した。彼女たちのすぐ後ろでその光景を見ていた俺は、何となく彼女が何を買うのか気になったのでひょいとカウンターに置かれた本を覗いてみる。4冊まとめて置かれた文庫サイズの本、その内の2冊分は何の本だったかはっきり見えた。ボーイズラブ系。4冊中の2冊がそれ系で、残りはちゃんと確認は出来なかったが帯のデザインが似たようなものだったので、残りについても同じ種類の本なのだろうとは容易に想像が付く。
……。
男の子を叱る母親としての姿とボーイズラブ系の小説をまとめ買いする20代後半女性の姿に激しい齟齬を感じるのは俺だけだろうか。そんな人初めて見た。
とは言え、誰だって多面性を持っているものだし、いつもいつも一貫した行動基準に従っているわけではない。子供連れてるんだからそんなもの買うな、とはいくらでも言えるが、生きている限り矛盾や齟齬はごく普通の事なのだろうと思うし、それを許容してゆく事がそのまま生きるという事なのだろうとも思う。
そんな事を考えているうちに彼女は支払いを済ませ、息子を連れて店を出て行った。俺は自分の本を買いながら、例えば自分自身が彼女のような立場だったらどうだろうかと想像してみる。6つくらいの娘を連れて、本屋でビニ本を脇に抱えてレジで並びながら、騒ぎ出した娘に社会の決まりごとを優しく解りやすく教え諭す俺。眼鏡をかけたレジのお姉さんと、後ろに並んでいる女子大生の視線。
……。
真っ当な人生を生きるためには、ある程度の一貫性が必要だと思う。