Horse the Band/The Mechanical Hand  (ASIN:B000AA4IQW)

開いた口が塞がらないと言うか何と言うか、ちょっとこれはすごい。色々な意味でブチ抜けている。"Nintendo Core"を自称するLAの5人組バンドの2nd、自分が聴くのは初めて。
メタルコアとカオティックハードコアの要素をベースに、ジャンクやノイズ、デスメタル、似非ディスコパンク、エモなどを洗いざらいブチ込んで混ぜ合わせるスタイルで、やたらと展開が速い闇鍋ジェットコースター音楽。喚き散らしたり唸ったり細い声でメロディを歌ったり、と忙しなく分裂症気味なヴォーカルがその上に陣取り、楽曲を纏めてゆく。
とまあここまでなら割と普通なのだが、そこに究極的な飛び道具としてキーボードが加わる。キーボードが使う音色がアルバム一枚を通してほぼ全てファミコン音源を模したあのピコピコ音である(しかも、音を3つまでしか同時に鳴らさない、言う制限までわざわざ課しているっぽい)、と言うのが"Nintendo Core"を名乗る理由であり、このバンド最大の特徴。あの音でもって演奏されると何をどう弾いていても奇妙奇天烈で間の抜けたものになってしまうのだけれども、そのキーボードが全編でツインギター以上にピロピロと弾きまくっているので、とにかくインパクトは呆れるほど大きく、一度聴いたら忘れられない。
しかし、カオティック要素込みのスラッシーなバンドサウンドファミコンのピコピコ音、と言うアイデア一発芸には決して陥っていない。サイコを装っているようでもオタク気質が見え見えのヴォーカルには少々弱さが見えるものの、バンドサウンドの迫力と楽曲の構成力には目を見張るものがある。モッシュパートからブルータルな吶喊2ビート、キメにキメを重ねる変拍子、ファンキーなディスコビートまでを自在にこなすリズム隊も強力なら、スラッシーな刻み、不協和音リフ、ノイズ撒き散らし、更には北欧メロデスばりのツインリードやメロディアスなソロまでもやってのけるギターも不可解なまでに格好良いし、問題のキーボードにしてもバッキングの取り方やフレージングは実に巧み。その上楽曲はいずれも妙に完成度が高く、特に終盤の#12「Lord Gold Throneroom」〜#13「The Black Hole」は一体何なのかと思うほどエモーショナルで劇的。前後脈絡を無視して暴発する不条理加減と楽曲の起承転結を両立させる曲作りには相当な実力の高さとセンスの良さが窺えるが、結局のところ全てを例のピコピコした音がブチ壊しにしてしまう、と言うどうしようもないギャップには何やら聴き手をハイにする麻薬的な魅力があり、何故か聴き終わってもリピートしてしまうのだった。確かな実力を下地にした上で、全力でもって繰り出される脱力&脱臼必至のギャグ。センスのいいバカほど始末に負えないものはない、と言うのがつくづく実感できる。
ファミコンをコンセプトに据えるアーティストの多くがあの音をキッチュ或いはモンドとして捉えているのに対して、彼らはどうもアクションやRPGなどの思い切りシリアスでドラマティックなゲーム音楽に本気で影響されている印象を受ける(そのため、結果的にキーボード弾き倒し系プログレメタルに近いニュアンスも備わっている)。この人たちイースとかロックマンとかを狂ったようにやっていたに違いない。そして、それが高じてこんなイカれた音楽を作るようになってしまったのだと思う。パーツの一つ一つはシリアスだが全体像は救いがたいほど間抜けで、それなのにちゃっかり格好良く、どこまで本気でどこからギャグなのか解らないまま笑いを誘われてしまう一枚。System of a DownやThe Blood Brothers、Terror 2000のこないだ出た新譜、PolysicsYMCK辺りが好きな方は是非どうぞ。いや、正味な話、これ最高だと思う。


まあちょっとMyspace(開くといきなり音出ます)で「The Black Hole」聴いてみてくださいよ。