Cock Roach/青く丸い星に生まれて  (ASIN:B00031YBJC)

よく読んでいるサイトの幾つか(桜色パレットさん、ラバーソウルの音楽、サッカー、映画さん)で紹介されてたのに興味を持って前作「赤き生命欲」を聴いたら非常に好みなタイプの音楽だったので、去年発表された本作も聴いてみた。
独特の日本的な……ただし歌謡曲よりもフォークや民謡を思わせるような枯れた叙情性と湿り気を帯びた暗さを感じさせるメロディ。強い嘆きと怒りを湛えて、時に扇動政治家のように叫び、特に教誨師のように語り掛けながら歌うアクの非常に強いヴォーカル。アングラ文学的な歌詞。まずそう言った歌と声と言葉が耳に付く。一方、バンドサウンドの演奏と楽曲の作りは「赤き生命欲」のように破壊的な狂熱とドロドロとして息苦しいヘヴィネスは希薄で、比較的穏やかで風通しの良い音楽性だが、一音一音に宿る緊張感や焦燥感は尋常でない。甘ったるさや媚びるところが全く無く、聴き手に正対を強いる厳しさが音像から厭と言うほど伝わって来る。
#1「死の王国」、#5「首吊りの木」、#6「蛭」等の曲名、或いはそもそもバンド名からして、敢えて醜悪で暴力的な部分を見せ付けるような言葉が目立つ。歌詞もそう言った傾向が強く、一語一語をはっきりと噛み締めるように叩き付けるように歌うヴォーカルのスタイルによって、退廃的で挑発的な言葉が耳に飛び込んで来るようになっている。多分に露悪的であり、また装飾的な言葉遣いが用いられている辺りで好みは大きく分かれると思うが、繊細さを切り売りする事無く、かと言ってマッチョイズムで高圧的な押し付けにも陥らないヴォーカルの声質と歌唱が、その言葉一つ一つに真実味を与えている、と感じた。ただ、そう言った真摯な姿勢が彼らの作り出す音の強靭さの源となっている一方で、万人に歌を届かせようと言う意志がやや薄い原因になっているようにも思えた。メロディーそのものは聞きやすいものが少なくないにも拘らずどこか閉じた雰囲気もある辺り、良くも悪くもハードコアなバンドだと言う事だろうか。
全9曲はいずれも「死と生」(生と死、とするとやや違和感がある感じ)を共通するテーマとして持っており、曲順もよく考えられているので一編のコンセプトアルバムを聴いているようにも感じる。不穏なリズム隊のうねりとアコースティックギターのカッティングが何とも格好良い#1「死の王国」で幕を開け、アップテンポで比較的キャッチーなメロディを持つ#2「孤独に輝く石」が切り開き、物語性の強い歌詞が印象深い#3「純心の目」が押し広げる、と言う序盤、穏やかな曲調が徐々にノイズにまみれてゆく大曲#7「記憶の水殿」から切ないメロディが胸を打つ#8「有限のパノラマ」、ピアノをバックにして優しく歌われるラストの#9「青く丸い星に生まれて」との終盤の流れが非常に良い。強烈なキャラクターのヴォーカルにどうしても耳が向きがちだが、メリハリの効いたアレンジによって楽器隊それぞれにも見せ場があって、バンドの一体感が強いのもすごく好印象。中でも、終始暗黒臭を撒き散らしながらも官能的なフレーズをうねうねと吐き出し続けるベースがとても格好良いと思う。
エネルギーが爆発的に外に向かうようなタイプの作品ではなく、静か動かで言えば前者に当たるようなアルバムではあるが、それでもなお安易に聞き流す事を拒絶するような激しい自己主張が耳を打つ。対峙せよ、とのメッセージが45分間途切れずに鳴り響き続ける、強烈なインパクトと独自の世界観を持つ一枚。