Pain Of Salvation/Be  (ASIN:B0002ZF0SU)

今年初頭に発表したアコースティック・ライヴアルバム「12:5」の流れをそのまま継いだかのように、アコースティックな色合いが濃く、そして今まで以上に弦楽器や管楽器を使ったパートが多い。曲によってはもはやチェンバーロックやそれを踏まえたポストロックにすら近付いていると思える程だが、かと言ってヘヴィメタリックな色合いが薄れたかと言うとそうでもなく、#9「Diffidentia」、#10「Nihil Morari」、そして3rdアルバム収録の名曲「Used」を更に優美かつエキセントリックに仕立てたような#5「Lilium Cruentus」辺りはむしろ以前よりもヘヴィになっている。
本作もコンセプトアルバムの形式を取っているが、曲と曲との結び付きの強さ、アルバムが作り上げる世界の深さと確からしさと説得力は過去の作品を大きく上回る。ヘヴィな曲とアコースティックな曲との振れ幅は非常に大きく、それらが効果的に並べられる事によって、一曲一曲単位としてでなくアルバム一枚で生み出される巨大で劇的なうねりは本当に感動的。相変わらず微に入り細を穿つ偏執狂的な作り込み具合だが、重層的な音の組み立てでありながら音の一つ一つがはっきり聴こえて来るようになっていて、バンドアンサンブル(と、オーケストラを担当するOrchestra Of Eternity。特にフルートとオーボエに存在感がある)の全てが十全に機能している事が良く解る。そのため、明快なメロディは減っているにも拘らず、彼ら独特の耳残りの良さ、キャッチーさは保たれていると思う。
インスト曲が多いのも特徴的。だが、それらがただの繋ぎになっておらず、存在感はとても大きい。ミニマルで仄暗いピアノが徐々に展開する#4「Pluvius Aestivus」、様々な言語のナレーションを包み込む穏やかで優しい空気が心地良い#8「Vocari Dei」、時限を刻む秒針のような緊張感がある#11「Latericius Valete」はヴォーカル曲に勝るとも劣らないほどに印象的で、美しい。陰鬱な雰囲気から祝祭的な空気に大きく展開するゴスペル風の大曲#7「Dea Pecuniae」、捻れたトラッド風の#3「Imago」とそのリプライズである#14「Martius/Nauticus II」ではヴォーカルとインストゥルメンタルの融合が見事だし、土着的な賛美歌を思わせる#6「Nauticus」や緊迫感のあるナレーションの背後でバンドサウンドが暴走する#2「Deus Nova」辺りはメロディよりも声そのものの魅力に焦点が当てられている。そして、オルガンの洪水をバックにした嘆きの小曲#12「Omni」から凄絶なバラード#13「Iter Impius」の流れは胸に深く突き刺さる。
このように、一曲一曲のイメージや使われている手法は以前のアルバム以上に幅広いが、全体を覆う気品とブレの無い美的感覚によって強い統一感がある。各曲の繋ぎが本当に自然かつメリハリがあって、隙の全く無い構成はまるで聴く映画のよう。これほど聴いていて時間が経つのを忘れるアルバムはそうそうは無い。また、聴く時の気分によって重なり合った音の中から自分の意識がクローズアップする音が異なり、その時その時で全く違うもののように聴こえたりもするために、これだけ強固な世界を作っておきながら決して押し付けがましくないのも実に素晴らしい。
強いて難点を挙げるなら音作りの面か。ギター、ベース、ドラムのヘヴィかつオーガニックな鳴りは文句なしだが、アコースティック楽器の音は全体的にちょっと硬質過ぎてヘッドフォンで聴いているとそれがたまに耳に付くことがある(ただし、この場合の比較対象はMercury Rev辺りの超一流の音作り)。また、これは以前の作品からそうだが、音の分離は良いものの音像に立体感が今一つ欠けていて、どうも奥行きのないのっぺりとした印象を受けてしまう。ここまでのアルバムを作るのなら、そう言った面ももっと磨き込んで欲しかったと思う。
そうは言っても、素晴らしい作品である事には変わりが無い。見せ掛けでない真摯なアートであり、それでもなお依然としてヘヴィメタルであり、音圧的なヘヴィネスだけでなく、精神にずっしりと訴えかける重さエンディングの解放感も見事に表現し切った大傑作。完璧を通り越して完全に近い。