Mo'some Tonebender/The Stories Of Adventure  (ASIN:B0002TB7XI)

前作「Trigger Happy」での大胆なエレクトロニクスの導入はどうも消化不足のままでに終わっていた印象が強かったので、本作には前々作「Light,Slide,Dummy」と前作とを融合させた更なる強烈な音を期待していたが、聴いてみたら予想と全然違う表情を持つアルバムだったので少々面食らった。打ち込みやダブ/レゲエ的な要素はほぼ取り払われており、かと言って以前のようなネジが吹っ飛んだようにサイケデリックな暴走ガレージロックに戻ったわけでもなく、アコースティックで淡い色使いとさりげなくも印象深いメロディが耳に残る、とてもポップなアルバムになっている。また、打ち込みは減った、と言ったが、代わりに妙にアナログなキーボード遣いがあちこちに見られるのが面白い。出だしの#1「Emperror Sun & Sister Queen」からしてメロトロンを模したような音のキーボードが使われていてこれが非常に印象的だが、(それほどあちこちで使われていると言うほどでもないにせよ)このキーボードがアルバム全体の雰囲気を柔らかく暖かいものにしている、と思う。
明るく広大な風景が目の前に広がってゆくような美しさとスケール感のある名曲#2「Green & Gold」、フォーキーでポップなメロディととても優しい歌い方に意表を突かれる#3「空っぽメモリーズ」、強烈にリズムを牽引するベースに身体を動かされるうちに、語りかけるようなユーモラスな歌い回しとキャッチーなサビメロが身体に染み込む、と言うこれまたド名曲の#5「アンハッピー・ニューエイジ」と前半はとにかくいい曲が多い。剥き出しの攻撃性は影を潜めているものの、十全に機能するしなやかなバンドサウンド(このバンドのリズム隊は本当に良い。シンプルなビート叩いていてもすごく格好良い)と良質なメロディとツボを掴んだアレンジが上手く噛み合っている感じで、ロックバンドとしての懐の深さを自然体のままさらりと見せられているような印象を受ける。そのさりげなさが粋だ、と思った。
前半のカラフルな名曲の連発と比べると、後半はメロウで穏やかな曲調のものがが多くを占める事もあって、少し地味。ただ、前作のように「後半でガクッと勢いが落ちる」と言う感じではなくて、ゆったりと流れが緩やかになっていくのに身を任せられるような感じで、聴いていてとても心地良い。#7「Red Head」や#9「around」や#11「ラジカル・ポエジスト」のようにヘヴィに歪んだギターが配された曲もあるにはあるが、前のように刺々しくはないし、産毛がチリ付くような緊張感も薄れている。その代わり、どの曲からも浮かび上がってくるメロディはとても豊か。それに、音の鳴りにもかなり気を遣っているようで、音と音との隙間を感じられるような音作りがとても気持ち良いとも思う。
以前のような、攻撃性と焦燥感にまみれた暴走ロックンロールを期待すると肩透かしを食う。と言うか、実際肩透かしを食ったので買ってからしばらくはこのアルバムをあまりちゃんと聴いていなかったが、全体を包む何とも柔らかで瑞々しい空気とメロディの良さに一度ピントが合うと、すっと入り込めた。派手ではないが、聴けば聴くほど味が出るいいアルバムだと思う。前半五曲と、#12「レノン・レノン」〜#13「足跡とショートホープ」の流れが特に良い。