若妻の匂い

店はボロボロだが美味しいし量は多いし異様に安い、と言う山奥にある定食屋に両親と行った。その道行きで、手作りの饅頭や野菜や惣菜を売っているような、公民館をどうにかして売店に作り変えたような建物を見つけた。その店には、でかでかとこんな看板が掲げられていた。
「若妻の店」
別に、そこが若妻と言う名前の土地だから、と言うわけではない。なので、このような名前が付けられている理由として次の二つが考えられる。
1.若妻が経営する店である。
2.若妻を何らかの形で取引する店である。
もちろん1番が正しいのだろうが、一瞬2番を思い浮かべる人も少なくないと思う(そう思いたい)。いずれにせよ、楚々としたエプロン姿の若妻さんがお出迎えしてくれる店なのだろう。そんな情景を想像して、少し幸せな気分になった。
それにしてもこの直截過ぎるネーミングセンスはどうかと思う、と言うことを両親に言うと、「若妻の家と名前がついた店は田舎に行くとあちこちにある」と言う答えが返ってきた。田舎の婦人会がやっている店は、よくこういう名前になるんだそうな。で、田舎の婦人会と言うものはどこでも若妻と言う言葉とその実態の間に大きくズレがあり、40代50代、時には60代の「若妻」さんたちがその店に詰めている、と言うケースが殆どらしい。まあ、現実なんてそんなものではある。
……。
ただ、もう少しだけ、いい夢を見ていたかった。