SunSetLive 2004@福岡県志摩町芥屋ビーチ、9/3(その2)

5日の日記の続きです。


パームステージに向かう途中で、どう考えても今日のこのフェスを観に来たと言う風情でない還暦過ぎた爺さんが歩いているのを見かけた。若い男が二人ほど付き従っていて、その爺さんに身振り手振りを交えてなにやら色々と説明をしている様子……ゴルフシャツにスラックス、と一応普通の格好だが、その爺さんの鋭い目つきや離れていても感じられる威圧感は明らかに堅気のものではなかった。香具師の元締めか何か、要するにヤクザの親玉が視察に来たと言う感じ。人の上に立つのに慣れているような立ち居振る舞いが妙に渋くて格好良いなあ、と思ってしまった。そして、そんな人が居ても特に違和感が無く溶け込んでしまうこの場所って懐が広い、とも思った。それでも尚、俺はなんか浮いてる気がしてたんだよな……いや、まあ、それはともかくThe Travellersの感想を。


>The Travellers
パームステージに入ると、先ほどの勝手にしやがれよりも更に大人数が壇上の4人組を観ながら身体を揺らしている。俺達が入って行った時は丁度ジャムセッション中で、ベース、ドラム、ギター、サックスが各々好き勝手に、かつ恐ろしい緊張感で音を叩き出していた。中でもドラムが凄まじく格好良くて、一音一音の厚さや鋭さ、切れ味が……比較するのも良くないが、今まで俺が観た事のあるドラマーの中でも段違いだ、と半ば呆然としながら思っていた。自分では気付かなかったが、連れによると「ドラムソロの間、お前は硬直してた。口が開きそうになってた」らしい。確かに、思い返してみると身体を動かすどころではなかった気がする。
で、このバンド自体は初見なのに、そのドラマーだけはどこかで見た事のあるような顔をしていたのでパンフを見たら「今回はゲストドラマーに中村達也を迎えて」とか書いてあったので驚いた。中村達也。あれがそうなのか……演奏時の鬼気迫る姿、叩き出される全ての音、死ぬほど格好良かったです。ドラムのあまりの凄まじさに呑まれてThe Travellers自体の印象がちょっと薄れてしまっているが、概して勝手にしやがれと似た系統の音だった。ただ、楽曲はロカビリーやパブロックの影響が強めで勝手にしやがれより幾分荒っぽいのに比べて、ギター兼ヴォーカルの声質や歌い方はもっとジェントルな感じ。凶暴な演奏の割にとても聴きやすかったと思う。これも最初からちゃんと観ておけば良かった、と激しく後悔した。今度音源も買ってみよう。
なお、終演後のメンバー紹介で「サックス、タケダシンジ」との一言が。これは中村達也が参加している事に引っ掛けたネタかと思ったが(そう思った人は少なくなかったらしく、あちこちから笑いが漏れていた)、後で調べてみたらこのバンドのサックス奏者は本当にタケダシンジと言う名前らしい。


この後はドライ&ヘビー。パームステージの隅に設えられたあずまやに座って、煙草を吸いながらビールを入れて休憩する。一旦外に出てから、串焼きとフライドポテトを買ってビールと一緒に食ったんだっけか。鶏の串焼きの屋台をやっていたおいちゃんがまたノリノリの人で楽しかった。関係ないけど、屋台で売っている一本400円位の串焼きっていつも原価はどれくらいなのか気になる。まあ、それはともかく……6時少し前、そろそろ日が傾きかけた時間帯で、海の方から吹いて来る涼しげな風が何とも心地良い。続々とパームステージに集まってくる人々は、さっきまでと比べると明らかに原色の派手なシャツや露出度の高い服を着た人たちが多い。一日目は、レゲエ系のアーティストはビーチステージに出ている方が多く、パームステージにはジャズ寄りのバンドが今まで出ていたので、この日初めてこちらのステージに入ってくる人も多いようだった。ダブの音処理のチェックのためか、他のバンドよりもかなり長いサウンドチェックの後を聞きながら、連れと会場のほぼ中央に陣取って出場を待つ。予定より20分ほど遅れて、メンバーが入って来ると大きな歓声がそこかしこから上がった。


ドライ&ヘビー
1曲目は「Kombu」で、めちゃめちゃ太いベースリフと重いドラムにいきなり持っていかれそうになった。このバンドも観るのは初めて(と言うか、全部観るのは初めてなバンドだったが)だが、生で聴くと本当に音が重くて太くて格好良くて、チャリチャリと裏を刻みながらソロでは思い切りラテンっぽい泣きを聞かせるギター、オルガン音を多用するキーボードも気持ち良い。ディープなダブの残響音はザラっとして金属質な感じで、ヘヴィメタルとはまた違った意味でヘヴィ&メタリックだった。
インストとリクル・マイのヴォーカル曲と井上青のヴォーカル曲が交互に出て来る、と言う、たぶん彼らのライヴに慣れた人にはお馴染みの構成でライヴが進んで行ったんだけれども、この構成が俺には凄く新鮮だった。楽器隊のうねりがモロに出て来るインスト、力強くもメロウなリクル・マイ曲、一番俺が考える「レゲエ」に近い井上青曲、とかなりカラーが違う曲が交互に出て来て楽しい。井上青のユーモラスな動きと飄々としつつもドスの利いた歌も良かったんだけれども、リクル・マイの曲はもっと良かった……と言うかこの人ものすごく可愛かったです。萌え。小さな身体に大きな身振りで歌うんだけれども、その動きが一々可愛い。キュートな声と張りのある歌唱は存在感抜群だったが、それ以上に生命力に満ち溢れた立ち居振る舞いが印象的かつ魅力的だった。
音源より全体的にゆったりしたテンポで、それに合わせて身体を動かすのがものすごく気持ち良かった。どこまでも深く広がっていくような残響音とグルーヴは、退屈とはかけ離れているのに身体を動かしていると段々意識が眠りに似たような状態にまで飛ばされてゆくような感じ。段々と日が落ちて夜の気配が満ちていく時間帯にもぴったりハマっていたと思う。堪能しました。観るのを一番楽しみにしていたのはこのドライ&ヘビーで、期待以上のライヴが観られて、今日ここに来て良かったと思えた。ラストの「Bright Shining Star」もすごく感動的だったな。


で、ドライ&ヘビーが終わると、更に人がステージに流れ込んで来る。今までのバンドを待つ雰囲気とは何か違う感じ……妙にざわついている。今日のトリ、九州初お目見えの東京事変椎名林檎とどう違うのか、と言う緊張感と期待がないまぜになっているような、そんな空気が充満しているような。
この時点で8時を過ぎており、空はすっかり暗く、その暗さが周囲の熱気を更に高めているように思えた。人口密度も上がっていて、あまり前の方で見ると疲れてしまうかも知れないから後ろでゆっくり観ようかとも思ったが、連れと協議の結果のんびりしながら観るものでもないだろうとの結論に達したので、ステージ左側の前列に立つ。
しばらくして後、次々とメンバーの5人が袖からステージに出て来る。当然と言うか何と言うか、一番大きな声援を浴びたのは椎名林檎だった。


東京事変
一曲目にいきなり「正しい街」を演ったのは、あまり気構えずに観るようにと言う意味だったのかも知れない。何にせよ、一曲目のこれこれで東京事変椎名林檎の差を考えながら観るという意識は観る前よりも幾分薄れた。とは言っても、そういう風に観る意識が無くなったわけでもなく、観ながらソロとバンドの違いについてぼんやりと考えてはいた。
正直な話、ライヴ全体としてはまだ「東京事変」としての姿は打ち出しきれていないように思えた。ソロの曲が結局半分以上を占めていた、と言う事もあるが、椎名林檎とそのバックバンドと言う印象が拭えていない場面が多かった。楽器隊各々の音の自己主張と強度は素晴らしく、バンドサウンドと歌は拮抗しているんだけれども、それでもやはり椎名林檎の存在感が突出し過ぎている感じ。
だが、その事とライヴの良さとはまた別問題。めちゃめちゃ良かったです。唯一無二の歌声と、「正しい街」「浴室(英詞に直されていた)」「幸福論」「丸の内サディスティック」「歌舞伎町の女王」「迷彩」等など、次々に演奏されるソロ時代の名曲群に高揚しっぱなし。極めて暴力的なバンドサウンドも非常に格好良く、ヴリヴリとうねるベースや手数の多いドラム、この日見た4人の鍵盤楽器奏者の中で最もブルータルな音を出していたキーボード、椎名林檎がハンドマイクの曲も多かったので目立つ場面もそこかしこにあったギター、どれも凶暴なノイズを撒き散らしつつも統制が利いた感じなのがとても良かった。ある意味この東京事変はスーパーバンドな訳だけれども、そういう成り立ちのバンドにありがちなバラけた感じや遠慮し合っているような印象も無かったし。しっかりとした一体感が感じられた。
最もバンドとしての東京事変を感じられたのは、やはりデビューシングルと2ndシングルの「群青日和」「遭難」だったように思う。「群青日和」の爽やかなスピード感と開放感、「遭難」のノスタルジックな疾走感は、確かにバンドサウンド椎名林檎の歌声がソロの既発表曲やカヴァー曲よりも溶け合っていて、また楽器隊の各人に見せ場もあり(「遭難」の疾走しながら時々突っかかるリズム隊が格好良かったのをよく覚えている)、5人で1つのバンドと言う感じが強く、確かに今後の展開が楽しみになる2曲だ、と思った次第。と同時に、この2曲の風通しの良いメロディを聴きながら「加爾基 精液 栗ノ花」はやはりどこか聴いていて息苦しさを感じるアルバムだったな、とも改めて思った。もっとも、その「加爾基 精液 栗ノ花」から「迷彩」「Stem」が演奏された時は、アルバムの装飾過多な部分を取っ払ってバンドサウンドで聴けばやはり恐ろしく良い曲だとも思ったんだけれども。凶悪な4度ハモリ半音上げ下げのギターリフが最初と最後に付け加えられた「Stem」はこの日聴いた全ての曲の中で一番格好良かった。
全て終わったのは予定より1時間ほど遅い22時前。トリだったし、今日観たバンドの中で一番激しく身体を動かしていたと言う事もあって、終わった後はさすがに虚脱感を感じた。


いい加減ふらふらになっていたので、まだやっている出店は素通りしてそのまま会場を抜け、天神まで直行の臨時バスが停めてあるところまで歩いて行った。いや、やっぱりと言うか当然と言うか、一日ぶっ続けってのは疲れるなあ……これほど疲れていたら、バス停に向かう道の途中で買ったラムネの蓋の開け方を知らなくても仕方が無い、と言うくらい疲れていた。で、バスに乗ると途端に意識が落ちて、気が付くと天神。ありきたりな感想だが、見慣れた風景に戻ってくるとさっきまで居た場所はどこだったんだろう、みたいな感慨があった。どこに、って海に居たんだよ。慣れない事して頑張ったなあ俺。
サンセットは3日間続くんだし、明日も明後日も来る人や、その辺のキャンプサイトや海岸にテント立てて頑張る人たちもきっと沢山居るんだけども、そういう人たちが羨ましくなった。明日も来て当日券買おうかなと思ったくらい、予想していた以上に楽しかったです。ライヴもだけれども、本当に皆が勝手に好きな事をしていて雰囲気がやたらユルいのが良かったし、天気も良くて海とか夏気分を(あくまで自分なりに)堪能出来たし観たかったバンドを観られたしで大満足。本当、気持ち良かったし楽しかった。