The Rasmus/Dead Letters (ASIN:B0002CHOUK)

あちこちで評判になっているので、どんなもんだろうかと買ってみたら予想以上に良かった。確かにこれは話題になるはずだ、と思えるだけの一枚だと思う。
艶っぽさと儚げな雰囲気を併せ持つ非常に印象的な声質のヴォーカルが歌う、甘くメランコリックなメロディが最大の武器。めちゃめちゃ耳残りが良く、聴けば一発で覚えてしまう即効性抜群のメロディが、アルバム全編から溢れ出ていて、全10曲(+国内盤はボーナス4曲)に本当に捨て曲と言うものが無くて驚く。泣きのメロディが吹き荒れる名盤、みたいなキャッチコピーが普通に付きそうな感じ。やはりフィンランドのバンドだからと言うことなのか、北欧独特の透明感や暗さはどの曲にも織り込まれていて、明るめで清涼感のある曲の中にも切なさと郷愁があるし、メランコリックなメロディの曲にはどこか荒涼とした冷たい空気が漂っている。そして、それらの細やかなニュアンスを鮮やかに描き出す歌声はとても情感豊かで、聴いていてとにかく心を揺さぶられる。
ハードロック/ヘヴィメタルの手法から苛烈さと暑苦しさを抜き取ってマイルドに仕上げたような適度にヘヴィな演奏とギターリフ、一曲一曲を短く纏める(いわゆる3分間ポップスの範疇内)衒いのないシンプルなアレンジが、歌声とメロディの旨みを最大限に引き出していて、聴いていてとても心地良い。演奏にせよメロディにせよ、全体的に極めて質の高い様式メロディアスハードロックちょっとだけゴシック風味入りと言った風情で、本作がロッキンオン辺りでもプッシュされているのが不思議に思えるほど、ある意味では古式ゆかしい様式に則った音楽だが、飛び道具の無い作りだからこそ、メロディに込められた切なさや哀感、清涼感や飛翔感が際立っている、と思う。
聴き所ははっきり言って全曲だが、シングル曲でもある#2「In The Shadows」、#3「Still Standing」、#5「Time To Burn」、#6「Guilty」、#8「The One I Love」辺りが特に好き。脳味噌がじっくりコトコト煮込まれそうな酷暑続きの近頃だが、これを聴いていると少し涼やかな気分になれる、ような気がする。聴き手をあまり選ばない、完成度の高いハードポップアルバム。お勧めです。