Downy/無題(4th)  (ASIN:B00028XD18)

日本の暗黒プログレッシヴ/ポストロックバンド(と今勝手に決めた)の4thアルバム。結論から言うと、傑作です。
明らかに前作までと比べて楽曲の幅が広がっているのが一聴して解る。今までの彼らの曲はどれもほぼ同じような雰囲気を持っていて、寂寞とした静のパートと破壊的な動のパートの配合具合を調整する事によって楽曲を作っているようなところがあった(悪く言えば、どの曲もある一曲の変奏曲のように聴こえた)が、本作は全9曲がそれぞれ明確に異なる表情を持っている。それでいて、このバンド最大の武器である荒涼とした空気や退廃的な美しさはしっかりどの曲にも封入されている、と言うのが実に良い。前作ではやや後退していた変則的なリズムとギターリフが再び曲の骨格となっている事、ベースを中心にバンドサウンドが更に攻撃的になっている事も個人的には嬉しいところ。
前作までの流儀をそのまま踏襲している曲は#7「木蓮」くらいで、後の曲は全て新味、と言って良いと思う。ジャズの要素と変態リズム・マグマ的にブルータルなベースが不穏に交錯する#1「弌」、同じくジャズ的ではあるがこちらはモロにクリムゾンなギターと暴走するゲスト参加のサックスがスピード感を強調する#4「Fresh」、Downy流のストレートなギターロックと聞こえなくもない#2「△」と#3「underground」、薄っぺらい16ビートを刻むドラムとヘヴィなベースラインとメランコリックなメロディとの相性が異様に良い暗鬱ダンスチューン#6「サンキュー来春」に#9「暗闇と賛歌」……と、まあ結局ほぼ全ての曲について逐一説明してしまったが、それくらいどの曲も印象深く、そして格好良い。殊に、「△」と「サンキュー来春」はずば抜けて良いと思う。
曲調の幅とは別にもう一つ、一曲の時間が大分短くなって複雑な展開を見せる曲は少なくなった、と言うのも前作までと明確に異なる点だと思う。相変わらずとことんまで捻れた造りをしているが、曲構成そのものはかなりストレートになった。「短くストレートになった」「曲のバリエーションが増えた」と言う2点によってかなりキャッチーになり、間口を大幅に広げる事に成功している、と言うのは非常に良い事ではあるけれども、その一方で2ndアルバムの複雑な曲構成がもたらすあまりに鮮烈な静と動/美と醜の対比や、3rdアルバムの同じような曲が延々と続く事によるサイケデリックな感覚が薄れている事には、少しばかり物足りなさを感じた。これから盛り上がりそうなところで曲が終わってしまう気がする、と言うか。
まあ、それはあくまでもごく個人的な好みの問題。このバンドが持つ本質的な魅力……寒々しく荒涼とした心象風景、寂寥感と哀しみがもたらす美しさ、馴染みの無い街を真夜中に当ても無く彷徨う時のような圧倒的閉塞感と重圧感は、今までよりも遥かに解りやすく明確な形で提示されていると思う。新たな要素と前作までの魅力・格好良さはほぼ完璧に融合していて、維持と前進を同時に遂げたような印象を抱かせる本作は感動的なまでに素晴らしい。
音像の奥に引きこもってか細い声で浮遊するヴォーカルが全く受け付けないと言う向きもあるだろうし、全体に漂ういかにもなアート臭が鼻に付く事もあるだろうが、その辺りさえ気にならないならこれは長く付き合えるアルバムになると思う。


なお、冒頭で書いた「暗黒プログレッシヴ/ポストロック」と言うのは、まあ確かに半分は冗談だけども残り半分は本気。このバンドについて書く時にはいつも触れることではあるが、北欧辺りの欝メタルや暗黒プログレがお好きな方には、このバンドの音を是非一度聴いてみて欲しい、と思う。纏う空気に共通するものを感じるので。


色々と買ったCDがあるので、数日間連続で感想を書く所存。Nightwish、ポリフォニック研究所、DEP、どれもすごく良いアルバムだと思う。