エグザイル

昼飯時に今まで行った事の無かったパスタ屋に入った。初めて行くパスタ屋ではまずカルボナーラを頼め、と言う格言(基本メニューだが美味しく作るのは難しいため。まあ、単に俺が好きだから最初に食べてみるってのもあるが)カルボナーラを頼んだら、これがすごく美味しかった。今日はここにして良かった。
パスタをあらかた片付けて、これからもちょくちょく通おうと言う決意を固めつつ食後のささやかな幸せに浸っていると、店に20代半ばくらいの男女連れが入って来た。席に着くなり、男が言う。女が答えた。
「昨日の電話、全部事実なんだって?」
「うん本当本当。引き取るの、皆に断られたんだって」
最初は、うっかり拾ってしまったり繁殖させてしまった犬の引き取り先が見付からずに困っている、みたいな話かと思った。だが、どうも彼らの会話を聞いていると犬猫の類ではなく人間の話らしい。以下、あまりよく話が聞き取れなかったが会話から断片的に聴こえてきた言葉を挙げてみる。
「政府(Safeかと思っていたがGovernmentだった)から電話がかかってきた」
「携帯取り上げて、メモリに入ってる番号に片っ端から電話かけたんだけど」
「わからない」
「政府が引き取るって」
「どうするんやろ」
西インド諸島とか?」
「私が引き取るはずない」
「トンガに島流し
「荒野を彷徨う」
衛星写真が見つけた」
……。
これは一体何の話なのか。
お願いだから何について話をしているのか教えてください、と頼みたい衝動に駆られる程に気になったが、食い終わってしまった後にいつまでも店に居座るわけにもいかないので、話の内容を掴む前に席を立たざるを得なかった。あまりにカルボナーラが美味かったので勢い良く食べていたのが仇になった。
後ろ髪を引かれる思いで勘定を済ませ、店を出て、雲一つ無い青空を見上げた。今見ているこの空と遠いトンガの空は一つに繋がっている、だから辛い時は空を見上げて元気を出して。
綺麗にまとめる意味は全く無い。