KING CRIMSON/Eyes Wide Open(DVD)  (ASIN:B00013YRL4)

二枚組。Disk1は2003年の「The Power To Believe」に伴うツアーの東京公演を、Disk2は2000年の「ConstruKction Of The Light」に伴うツアーのロンドン公演を収めたもの。
まずDisk1。アルバムの緻密さを保ったままにライヴならではのダイナミズムと迫力が大幅に加わって、正しくヌゥオヴォメタル完成形と言うべき姿で問答無用に繰り出されてゆく楽曲の数々。尋常でない破壊力・重量感・威厳を1時間半の間まざまざと見せ付けられ続けると言う内容にただただ圧倒される。「ConstrucKtion〜」にせよ「The Power〜」にせよ相当作りこまれたアルバムだったが、恐ろしく正確かつパワフルな演奏力と様々な機材(と言っても、基本的に各々がやっている動作は何かを弾くか何かを叩くかだが)でもって、その異様に複雑で偏執狂気味に作りこまれた楽曲を再現してみせる様はめちゃめちゃ格好良い。演奏と同期したライティングが曲を更に引き立てていて、「Elektrik」「The Power To Believe II(Power Circle)」「ConstrucKtion Of The Light」では幻想的な美しさを、「Facts Of Life」や「太陽と戦慄VI」辺りでは子供が観たらトラウマになること必至の破壊的イメージを見事に増幅する。王者の名に相応しい威厳と、更に破壊的で更に不穏な音を貪欲に追求する姿勢とが完全に融合した素晴らしいステージ。DVDに収録する事を前提として撮影されているので、カメラワークも演奏のダイナミズムが観ている側に伝わるよう良く考えられており、一つの映像作品として非常に完成度が高い。不満があるとすれば、フリップの最もエモーショナルなプレイ(「Facts Of Life」中間のソロ)の時に彼の姿があまり映らない事、ステージに立つ格好とは到底思えない「おっさんがYシャツの下に着てるような白の肌着+薄い灰色のスラックス」と言うブリューの服装、表題曲のはずの「Eyes Wide Open」が撮影日のセットの関係で収録されていない事、くらい。それ以外は限りなく完璧に近い。
で、Disk2。2000年と2003年と言う時期の違いからDisk1とDisk2とで演奏やアレンジの方向性の差を聴き比べるのは確かに楽しいし興味深いが、時期の違い以上にこの2枚の間には大きな差がある。東京のホール公演だったDisk1と違って、Disk2はロンドンのあまり大きくないライヴハウスで演奏されているようで、Disk1のように手の込んだライティングも無いし、観客とバンドの距離も近い。スタンディングで観客のノリは良いし、バンドの方もブリュー以外のメンツも時折笑顔を見せたりして随分と楽しそうにやっている。等などの違いから、Disk1の方でのどっしり構えて重圧感と格で圧倒する横綱相撲と比べて、Disk2での姿は比較的「普通のロックバンド」に近く、そのノリが観ていてとても新鮮。こちらの方は元々ブロードバンドでオフィシャルブートレグとして有料配信するために撮ったものと言う事で画質が悪く、カメラアングルも基本的にあまり動かないが、それがかえって映像の生々しさを出していると思う。演奏自体はDisk1に劣らず強力。「Cage」の何となくスパニッシュでメロウなフリップのギター、個人的には「Dinosaur」以上にヘヴィネスとポップが融合していると感じる「Into The Flyinf Pan」、ブリューの弾き語り「Three Of A Perfect Pair」での大盛り上がり、えらく楽しそうに凶悪なインプロをブチ撒ける「Sex,Sleep,Eat,Drink,Dream」、などDisk1に入っていない曲がどれも非常に良く、またそれらの曲がクリムゾンとしては比較的ポップだと言う事が、(あくまで、比較的)普通のロックバンドっぽい居佇まいに繋がっているのが面白い。
Disk1と2、どちらもライヴ自体の出来は恐ろしく良い。コンサートを記録した映像作品としての1、ライヴの熱気を加工せずに封じ込めた感のある2と異なる雰囲気を楽しめて、なおかつ選曲的にも楽曲の変遷と言う意味でもこれ一つで第六期のクリムゾンを総括出来てしまう大傑作ライヴDVD。クリムゾンに興味はあるけれども聴いた事は無いという方への入り口としても最適だと思う。