少女募金とリアル黒沢

去年の年末、父方の田舎へ帰っていたときに近所の神社にお参りに行ったのだけど(ちなみにそれは2003年の初詣だった)、参道の脇に「ユニセフ募金」と書いた箱を持って、「ユニセフ募金ご協力お願いしまーす。恵まれない子供への募金よろしくお願いしまーす」と連呼しつつ二人連れが立っていた。一人は四十手前くらいのおっちゃんで、もう一人は十代半ばくらいの女の子。俺の前を歩いていた人の結構多くが彼らが持っている募金箱に小銭を入れていて、だからと言う訳でもないが何となく俺も募金をすることにした。財布を取り出して、50円を手に取ると女の子の(彼女の方が俺から見ておっちゃんより手前に居たので)募金箱に入れる。寒いせいかあまり元気がない「ありがとうございましたー」という声を背にして、彼らの横を通り過ぎようとしたちょうどその時、おっちゃんがぽつりと呟いたのが聞こえた。独り言のようだったが、おいちゃんの真横に居た俺にはしっかり聞こえてしまった。
「おいちゃんの募金箱には誰も入れてくれん……」
……。
せつねえ。
そもそも神社により近い方、つまり歩いている人間から見て近い方に女の子が居るので、募金をしようとする人は大抵は手近な女の子の方を選ぶと思うし、それとまた別問題として、四十絡みのおっちゃんと十代の女の子のどちらが持っている箱に募金をするかと聴かれればつい後者を選んでしまうのが人情だろう。だろうとは思う。思うが、夕暮れの冷え込みにぐすっと鼻を啜りながらのその呟きはあまりに寂しかった。自分がもし彼の立場なら涙すら零していたかも知れないと思う程の切なさ。募金活動(もしくはそれに類似した詐欺行為)をする時に女の子を連れていると寂しい思いをする、と言う事が解った。
しかしまあ、それはそれ。これはこれ。それでもやっぱり、どうせなら女の子の箱がいい、と思いつつその場を去った。