嫌い

嫌いな曲、嫌いなアルバム、嫌いなアーティスト、ってのは基本的に無い、もしくはいない。積極的に何かしらの音楽を嫌いにならなければならない理由は少なくとも自分には無いし、そもそも本当に何かを否定したいのなら、攻撃するより黙殺する方がより効果的だと思う。それでも、強いて挙げろと言われれば、嫌いなアーティストはスーパーカー、嫌いなアルバムは「Highvision」、嫌いな曲は「Strobolights」と答える事になると思う。
「Strobolights」がリリースされて有線やラジオで良く掛かっていた頃、俺はコンビニの夜勤をやっていた。あの夜勤って奴は夜明け前〜夜明け、あと少しで今日の働きが終わると言う気持ちに反して身体はだるいし眠いし客も段々増えて来る、と言う4時から6時前辺りが一番しんどいと個人的には思うんだけれども、そんな明け方に「Strobolights」のあのピコピコした電子音とそれに続く「2愛+4愛+2愛+……−Sunset、……」と繰り返す高音のコーラスを耳に強制的に流し込まれるのがとにかく辛かった。破壊力は同時期にやはり有線でしょっちゅう流れていた「ミニモニ。ジャンケンぴょん!」よりも遥かに上で、特に体調が悪かった日の明け方にあれを聴かされた時は、目の奥がひどく点滅して俺はこのまま癲癇か何かになるんじゃなかろうかってくらいヤバかった覚えがある。
単なる逆恨みのような気がするが、明け方の朦朧とした状態で眺めるコンビニの景色と神経を良くない意味で刺激するこの曲は強く結び付いてしまっていて、自分が知っている中で「嫌い」に最も近い曲の内の一つになっている。ただ、逆に言うと、これほど特定の景色と分かち難く結び付いて印象に残っている曲もそうそうは無い訳で、嫌いと言うのも悪い一辺倒でもない、とも思う。