肉と殺意

ちょっと前の話だが、美味い焼肉とかホルモンとかが食べられて定食なら値段もそんなに高くない焼肉屋に昼飯を食いに行った。
ミックス定食800円を頼んで目の前の鉄板で兄ちゃんが肉を焼いてるのを見るとはなしに見ていたら、カウンターの隣の席に20代後半くらいのサラリーマンが座って、単品の焼肉を色々頼み始めた。軟骨みたいなコリコリにホルモン、イチボ、牛レバ刺し。で、彼は頼み終わると持っていたマガジンを開いて時間を潰し始めた。あの、ここ単品の焼肉頼むとそれなりの値段するからそんだけ頼んだら2500円(CDアルバム一枚分の値段)くらい余裕でかかりそうなんだけど……しかも生ビールまで頼んでるし、豪勢だな昼間から。て言うかいいなあコリコリ食いてえ。そんな彼を横目に見つつ、自分のミックス定食が来たんでそれを細々食っていた。
しばらくしたらそのサラリーマンの飯が出来て店員さんがカウンターに料理を置いていったんだけど、彼はあろう事かマガジンを開いたままで、読みながら肉を食い始めた。視線をひざの上に置いたマガジンから逸らさず、肉の方を殆ど見ないままで。
殺意すら覚えた。なんだこいつは。昼飯にそんなに金かけるかどうかは、まあ個人の懐具合や好みの問題だから良いとしても、そんだけいいものをマンガ読む片手間に食うのは許し難い。「一歩」読んでる場合じゃないだろうが。焼肉冷えるってば。て言うかそんな勿体無い食い方をするくらいならそのコリコリとレバ刺しをくれ。と必死で横から念を送ってみたが勿論そんなものが届くはずもなく、結局彼は(少なくとも俺が席を立つまでは)マガジンを閉じずに、だらだらとビールを飲み、焼肉を食い、そしてビールを飲み終わった後にはライスを頼んでいたのだった。
ミックス定食はいつも通り美味かったが、あのサラリーマンの昼飯と比べてしまうとなんだか切ない。昼飯に800円ってのは結構奮発した方だったのに、俺はまるで負け犬になったようなやるせない気分で飯を食い終わり、勘定を済ませて悄然と店を出た。店先に張り出されている品書きと値段を見ると、ますます切ない気分になってくる。800円と2500円ってのはこんなに違うのか。しかもそれを目の前であんな食い方をされるとは。あまりに理不尽だ。
レバ刺し食いたかった。本当はビールも飲みたかった。