週末十月末日/ピーター・ガブリエル

大学からの帰り道。少しずつ日が落ちてゆく天神は人通りがいつもよりも多く、そしてどことなく皆浮かれたような感じで、街全体が三連休を控えた週末の雰囲気に覆われていた。いや、週末はいつでもそいう気分が街中にあると言えばそれは確かにそうなのだけれど、今日は何故かその雰囲気がいつもよりもずっとダイレクトに自分に染みこんで来ているような気がして、特に目的もなくただふらふら歩いたりベンチに座って人の流れを見たりしていた。
で、その間に聴いていたのはピーター・ガブリエルの「Up」なんだけども、これが実に夕暮れの天神の空気と合っていて、すごく良く馴染んだ。このアルバム、部屋で正座して聴く事が望まれるような重厚で静謐な雰囲気を持っていたので今まで外に持ち出して聴く事がほとんど無かったが、俺が勝手にそう思い込んでいただけで(今のこの人自身が持っている隠者っぽいイメージに惑わされていた部分もあるとは思うが)実際はもっとずっとカジュアルで開かれたアルバムだったと言う事に買って一年以上経ってからようやく気付いた。まるで外部の音がアルバムに入り込む事が予定されているかのように絶妙な隙間が音像にあり、雑踏の音や空気を拾い出して取り込む力、懐の広さがある。
聴きながら歩いている時に目にした風景の一つ一つがこのアルバムのビデオクリップとなり、逆にヘッドフォンから流れてくる音楽がこの風景のサウンドトラックとなるような、人と建物・音と風景が混ざり合う都市的な感覚がこのアルバムに備わっている事に気付けた今日は、とても運が良かったと思う。


そんな事を考えながら、何となくいい気分でふらっとゲーセンに入ってエレベーターに乗ったら小悪魔のコスプレしたお姉さんが居て死ぬほどびっくりした。しかもこっちに向かって手に持った何かを差し出しながら話しかけてくる。慌ててポータブルプレーヤーのボリュームを落として話を聞いたら、
「お菓子はいかがですか?」
と。満面の笑顔で。動揺しつつも差し出されたものを見てみるとそれはジャーマンメタル筆頭バンドのシンボルって言うかジャックオーランタンを模した容器で、中には確かに彼女(ちなみにコスプレはかなり似合っていた。特に、ちょっとボンデージ入った黒のコルセットが良い感じ)の言う通りお菓子が詰まっていた。ここでやっとハロウィンだという事に思い当たる。
さすがに、この風景はヘッドフォンから聴こえる音と結びつかなかった。とりっかとりー。