ひょうひょうと

著作権法改正案、“修正”ならず――文部科学委員会で原案通り可決
万来堂日記:準備はいいかい?
たとえこの改正案によって聴く音楽の選択肢が恣意的に狭められようとも、レコード業界にいいように侮られカモ扱いされようとも、問題意識の高い音楽リスナーに「この期に及んでそれでも音楽を愛せるなんておめでたい」と切り捨てられようとも、音楽を聴く事の本質の部分に大した影響はない。アルバムの一枚一枚、曲の一つ一つに相対したその時々に、自分の内側に生ずる印象や感情や情景を大切にする事さえ出来れば、何も恐れる事はない。
と、思うんですが(微妙に弱気)。ああ、やっぱりアジテーションには向いてないな俺は。


菅野よう子/攻殻機動隊 Stand Alone Complex O.S.T.2  (ASIN:B0001ZX2L8)

OST1では冷ややかでメタリックな感覚が全編に色濃く漂い、その冷色系の手触りの隙間に様々な音楽的要素(テクノ、プログレ、トライバル、ゴシック、ファンク……)が詰め込まれることによって強固な世界観が作り出されている感があったが、OST2はデジタルでサイバーな曲とそういう質感が抑え目のアコースティックな曲が割とはっきり分かれているように思う。特にアルバム後半、暖かみを感じる曲が多い。また、ジャジーな曲が幾つかあるのも全体の印象に影響を与えている気がする。
OST1同様、「サイバーパンクなアニメで流れる音楽」と言う非常にはっきりしたコンセプトがあるため、サウンドトラック・劇伴と言う体裁にも拘らず個々の楽曲がそれ単独で強い存在感を持っている。そして、それでいて、作り手である菅野よう子や手練のプレイヤーたちのエゴは上手く薄められていて簡単には見えてこない。改めて言うまでも無い事だが、プロの仕事だと思う。
そんな隙の無い仕事っぷりが全編で聴ける本作、オーソドックスな「サイバー」のイメージをしっかり踏襲しつつ、そこから半歩ズラした新鮮なイメージをも描き出してみせる各曲のクオリティは当然べらぼうに高い。荘厳な女声ソプラノと疾走するリズムにいきなり圧倒される#1「サイバーバード」、「Inner Universe」の変奏曲と言った趣のトランシーなデジタルロック#2「Rise」、ディスコパンク辺りをちょっと意識しているように思えるリズムの上でサックスが暴れ回る#3「Ride On Technology」のオープニングがめちゃめちゃ格好良く、それ以降もいかにもサントラっぽい小曲(と言っても、短い曲でも妙にヒネリが利いていたりするので飽きたりしない)を挟みながらヴォーカル曲が随所に配されている聴きやすい作り。ファンキーで騒々しい#8「Get 9」(折角だから9曲目にすれば良いのにとちょっと思った)、Massive AttackEvanescenceのちょうど中間、ある意味理想的なゴシックメタルの#5「I Can't Be Cool」、手癖っぽいメロディながらアコースティックなアレンジとの相性が抜群な#10「What's Is For」、パーカッション→ストリングス→物悲しいピアノ、と言う流れがドラマティックな#12「To Tell The Truth」辺りが特に良いと思う。
生楽器やヴォーカルの暖かみを活かした曲が多く、前作ほど一枚通しての統一感が無いのは好みが分かれるところかも知れないが、それはこのサウンドトラックがおそらくは3部作のため、2枚目の本作に自然とそういう曲が集まった結果であるように思う。ズバリ曲名そのままの不穏な空気が渦巻く短いインスト#17「We Can't Be Cool」で唐突に終わるアルバム構成も本作単体で見ると少々不自然だが、逆にそれがいずれリリースされるであろうOST3への期待を(多分、2nd Gigを観ている人にとっては、アニメ本編のこれからの展開への期待も)高めてもくれる。
何にせよ、菅野よう子作品が好きなら文句なくお勧め。映像を喚起する力がとても強い音楽のため、アニメを観ていなくても十分に楽しめると思う。


追記。不穏なミュートトランペットを切り裂く派手な打ち込みドラムがキナ臭くて格好良い#4「アイドリング」について、きえふさん(すいませんいつも引用しちゃって。菅野よう子作品に興味がある方はきえふさんのサイトは必見だと思います)は「モロにニルス・ペッター・モルヴェル」と書かれているんだけども、そのアーティストの音楽を聴いた事が無い俺にはモロにBoom Boom Satellitesに聴こえました。