ある種の羞恥プレイ

不可解なものを見た。
地下街を歩いていたら、ギャル風の格好をした人が向こうから歩いてきた。年はたぶん俺と同じくらい、背はかなり高くて170センチ強、不必要なまでにキラキラした服を着て、えらく丈の短いスカートを穿いていて、早足大股で歩く足取りは颯爽としていると言えなくもない感じ。だが、顔に目を向けると、何とも奇妙な表情をしている。すごく納得が行かなさそうな、居心地が悪そうな、情けない顔になりそうなのを我慢しているような、どうしたらいいのか解らないんだけれどもとりあえず歩くしかないと言いたげな……一目見てそういうのが読み取れるくらい、とにかく困り果てているさまがはっきり出ている顔をしていた。往来を歩きながらそんな顔をしている人はちょっと珍しいなあ、と思ったんだけれども、その人が奇妙なのは表情だけではなかった。
顔を見て数瞬後に気が付いたんだけれども、どうもその人は女ではないようだった。いや、ぱっと見て明らかにこれは男だろう、と判断出来るほどではなかったが、見た後にちょっと考えれば男かも知れないと俺でも思い当たるくらいの、ゴリエを上方修正したような感じ。それ(170センチ強、ギャル服。よく見ると肩幅とかゴツい)が複雑微妙な表情で歩いている、と言うのは明らかにおかしい。罰ゲームか何かで女装でもさせられているのかとも思ったがスカートを穿き慣れていない風情ではなかったし、けれども居た堪れない言う感情ははっきり顔に出ていたとも思う。
普通に歩いていて擦れ違っただけだから、その人を俺が見た時間はせいぜい2、3秒だろうと思う。だがインパクトは強かった。と言うか強すぎた。ありゃ一体何だったんだろうな。
いずれにせよ、彼の経歴や置かれた状況についてひとしきり想像した後、女装は一度で十分だと言う思いを新たにした。