21グラム

観てきました。映画館で映画を観るのって2年ぶりくらい。
「最初は関係無いように思える三つのストーリーが徐々に絡まり合って、最後に一つに結び付く」みたいな売り文句で、正直映画に不慣れな俺が観てちゃんと話の筋立てが理解出来るか少し不安だったが、思ったほど難しくはなかった。外国人の顔の区別がうまく付けられないので、話が切り替わる度に今映っているのは誰なのか考えなくてはいけなかった(特に男は髭を剃っている時と生やしている時の両方が出てくるので余計に判別しにくかった)が、それもしばらく観ていたら慣れたし。
交通事故で夫と二人の子供を亡くした女、心臓の病を患った数学者、元チンピラで敬虔なキリスト教徒の下層労働者。三人と彼らの周囲の人間たちが辿る運命を、細かく視点や時間軸を切り替えながら少しずつ描いてゆく。フィルムを切り刻んで一旦バラバラにしてから組み合わせ直したように(後で知ったんだけれども、監督はDJ出身だとか)時系列もバラバラで、視点もランダムに切り替わる。だが、前述した通り、難解ではない。むしろ全体のストーリーを解りやすくするために慎重な編集がなされている、と思った。
過去〜現在、と言う通常の時系列・因果律の通りに進まない展開が、逆説的にストーリーに横たわる因果の流れを強く印象付ける。下層労働者が、信じてきた神に裏切られた、と腕に彫った十字架のタトゥーを焼いたナイフで削り取ろうとするシーンが象徴的だと思うが、この話には、ひいては我々が生きる現実には、神の救いの手は差し伸べられない。奇跡のような救いの代わりに、誰も根っからの悪人ではないのに唐突に悲劇に襲われる、と言うどうしようもない因果、運命が淡々と織られてゆき、その因果はラストに三つの話を結び付けて決定的な破滅を呼び込む。たが、(劇中で何度も強調されているように)どんなに不運や悲劇に巻き込まれようとも、それでも人生は続く。生きている限り、続いてゆかざるを得ない。そういう様が描かれている映画だった。
ザラっとしてるんだけども鮮やかな映像が美しく、徐々に緊張感が高まってゆくストーリーテリングとあいまってスクリーンに引き込まれた。ただ、数学者の行動がどうも不誠実と言うか不自然で、ストーリーをうまく転がすために動いているような印象があって、そこでちょっと感情移入を阻まれたような気になったのが少し残念だった。