or構文

最近忙しいせいで手っ取り早く食える吉野家を選びがちだが、今日も今日とて吉野家で牛丼食っていた時の話。俺の隣に座っていたおっさんが湯呑みをカウンターの上にとんと置き、手を挙げて店員さんを呼んだ。すると、俺より少し年下に見えるショートカットな店員さんが店の奥から小走りでやって来て、空の湯呑みを手に取った後でおっさんに笑顔でこう聞いた。
「コーヒー、紅茶どちらになさいますか?」
対するおっさんの返答。
「紅茶を」
ええと、ここってコーヒーとか紅茶とか置いてたっけか? 思わず品書きを見てしまったが、コーヒーとも紅茶とも書かれていない。まあ当然と言えば当然で、注文してから勘定を済ませて店を出るまで5分程度しか掛からないような殺伐とした店でコーヒーとか紅茶とか悠長な事を言っていられるはずは無いと思う。じゃあさっきのやり取りは一体何だったのだろうと内心首を捻りながら残りの牛丼を掻っ込んでいると、奥からショートカットな店員さんが戻って来て、「どうぞー」とやはり笑顔で言いながら、おっさんの前のカウンターに湯呑みを置いた。
ここら辺で俺はやっと気が付く。あれは、
「コーヒー、紅茶どちらになさいますか?」
ではなくて、
「お冷、お茶どちらになさいますか?」
だったのだと思う。まるで中学一年生の英語教科書に出て来るスチュワーデスのような台詞が俺の頭の中で形成されてしまっていた。ショートカットな店員さんの笑顔にまんまと騙された。
……。
新しい耳かきを買おうと思う。