乳児と23歳の分岐点

バスの最後部座席に座ってポータブルプレーヤでCDを聴いていると、すぐ前の席からこっちを覗いている小さな顔と目が合った。赤ん坊が母親の膝の上から身を乗り出し、後ろ側を向いて俺の顔をじっと見ている。母親に何度も正面を向くように抱き直されているが、その度にまた振り返ってまたこっちを見るので、少し相手をしてやる事にした。赤ん坊がこっちを向く度に変な顔をしてみせたり携帯をピカピカ光らせたり、赤ん坊が首を傾けているのと同じ角度まで自分の首を傾けたり指を妙な形に組んだりすると、それが面白いのかあっちも笑ったり謎の言語を発したりする。で、そのリアクションを見つつ、今度は両手を使って顔をちょっと説明しにくいレベルまで更に変形させる。赤ん坊もっと笑う。
何と言うか、普通に楽しい。相手をしてやってるのではなくて一緒になって遊んでいる感じ。要するに自分は赤ん坊とさして変わらないレベルだって事なんだろうが、まあ面白いからいいか、と思いながら次は何をやろうか考えていると、赤ん坊のとは別の視線を右から感じる。ふいとそっちを見てみると、30過ぎくらいのサラリーマンがものすごくコメントに困る微妙なものを見る顔つきで俺の方を見ていた。いつの間にか、公共交通機関の中で赤ん坊を見た時の対応を逸脱したレベルで俺は顔面を崩していたのだと思う。
……。
サラリーマンが、赤ん坊には微笑ましいものを見る視線を送っていたのがはっきり解った。辛い。