山本弘/神は沈黙せず  (ISBN:4048734792)

本の感想がその他のカテゴリになってしまうほど普段は本を読まないが、いつも読ませて貰っているHybrid No.9→under dogさんで紹介されていたのが気になったので買って読んだ。
「神は存在するのか、存在するとしたら何故この世の不条理を一掃して救済を行わないのか」と言う問いと答えを、UFOや超能力等のオカルト、宗教、現代科学や量子コンピュータ、進化論と創造論シミュレーションゲーム、サイバーウォー、等を絡めて現代〜近未来を舞台に真正面から書いている。冒頭の問いの答えは、それだけを抜き出してみるとそれほど奇抜でもないんだけれども、そこに持っていくまでの本格ミステリィめいた論証のじりじりした緊張感とか、どこからどこまでが事実なのか解らない(特にUFO絡みのトンデモ話が全編に散りばめられているのが感覚を狂わせる)虚実の入り乱れ具合とかで「神とはどういう存在なのか」と言う答えには説得力が凄くある。膨大な資料や薀蓄の奔流に圧倒されるんだけれども、それも読んでいる間楽しめた。一週間くらいかけて読んだんだけれども、終盤はやっぱり一気に読んでしまった。すごく面白かったです。
山本弘には、シンプルな勧善懲悪を合理的に示したりハッピーエンドを肯定したりするためにはどんな回り道も厭わない人、みたいな印象が個人的にはあるんだけれども、この話もそんな感じ。無論、SFやミステリィとしての面白さは「神とは一体何なのか」が徐々に解きほぐされてゆく過程に尽きるんだけれども、最後の爽やかなエンディングの前ではその「神」すら刺身のツマだと思える。それくらい、ラストシーンが良かった。ただ、本当は、ラストシーンがオーストラリアでなく日本国内の方が良かった気もする。


山本弘はやはり「神」を扱った小説として「戦慄のミレニアム」を書いているけれども、テーマや二重の「神」と言ったモチーフはあちらと共通するところも結構あったように思う。タイトル、「神は沈黙せず」の「神」が何かと改めて考えてみると、「戦慄〜」「神は〜」のどちらも言っている事の根っこは同じなんだろうな。
また、あくまでハッピーエンドを志向する辺りや、リアリティの多重構造みたいな考え方を説明する時の慣れ具合なんかには、この人がグループSNEの元一員としてディードリットの中の人様々なテーブルトークRPGに深く関わって来ている所が透けて見えたりして、それが何とはなしに嬉しかった。俺には、やっぱりこの人はと学会の会長って以前にソードワールドリプレイ第一部のGMなので。あ、いや、「サーラ」もだけど。
本の感想を書くのは大層難しいです。